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妊娠しない原因は着床障害?その一因は子宮内フローラの乱れ?

      2018/11/09

子宮内フローラ

妊娠できないといってもその原因は人それぞれです。ある人は卵管に異常があったり、ある人はなかなか着床せず、また別の人では、流産を繰り返すといったことがあります。排卵から出産までの様々な過程において、意外にも菌が原因となる疾患が多いことをご存知でしょうか?今回は、医療機関向けに臨床検査の受託解析などを手掛けるバリノス株式会社の桜庭さんにお話を伺いました。

着床障害、着床不全に菌が関わっている?

近年、これまで原因が不明とされてきた着床障害や着床不全にも菌が関わることがわかってきました。繰り返し良好胚を移植しているのに、妊娠が成立しないか化学流産を繰り返す反復着床不全では、卵子の異常以外に、子宮内膜の環境が重要なのではないかと注目がされました。詳細に調べてみると、反復着床不全患者の34%、原因不明不妊患者の28%、原因不明習慣流産患者の12%に、種々の細菌感染によって引き起こされる子宮内膜炎が生じていたのです。子宮内膜炎を含む着床障害の原因を明らかにするため、子宮内の菌環境を調べる子宮内フローラ検査を不妊スクリーニング検査として導入するクリニックが増えてきています。

子宮内にも菌がいる?善玉菌と悪玉菌。

腸内には様々な菌が存在し、「腸内フローラ」と呼ばれていますが、これまで無菌だと考えられていた子宮にも菌が存在していることが、技術の進歩により分かってきました。そして、子宮内で重要な役割を果たしている菌というのが、腟内の善玉菌としても知られるラクトバチルス(乳酸桿菌)です。
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ラクトバチルスは、女性ホルモンの影響によって分泌されるグリコーゲン由来の物質を餌としており、ラクトバチルスが産生する乳酸によって腟内は他の雑菌が増殖しづらい環境となっています。腟内のラクトバチルスが減って他の悪玉菌が増殖してしまうと、細菌性腟症と呼ばれる感染症を起こすことが知られています。

ラクトバチルスが多いと体外受精の結果が良くなる?

さらには、最新の技術を駆使した研究によって、腟だけでなく子宮内にもラクトバチルスが見つかり、ラクトバチルスの割合が高いほど体外受精の結果が良くなることがわかってきました。腟内と同様に、子宮内のラクトバチルスが減り悪玉菌が増えてしまうと免疫が活発になり、炎症を引き起こしたり、免疫が受精胚まで攻撃しているのではないかと、研究者たちは考えています。スペインで行われた研究で、ラクトバチルスが90%以上を占める女性と、そうでない女性との体外受精の成功率を比較したところ、妊娠率で2倍以上、妊娠継続率は4倍以上、生児獲得率については8倍以上の差があることが分かりました。

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不妊女性の子宮内はラクトバチルスが少ない?

また、日本人女性を対象とした子宮内フローラの研究結果も2018年5月に発表されました。やはり不妊女性の子宮内ではラクトバチルスが少ないという結果が出ており、ラクトバチルスを増やすことが胚移植の結果に好影響を与えると考えられています。胚移植を行う前に子宮内フローラ検査で子宮内環境を調べることによって、もし状態が悪いと分かった場合には治療を行い、着床に適した状態で移植することで、着床の成功率が高まる可能性があります。

子宮内の菌環境を調べる方法:子宮内フローラ検査

これまでの菌を調べる検査には、腟や子宮から採取した検体を顕微鏡で観察したり、特殊な培地で菌を培養するという方法がとられていました。しかし、この方法では発見しにくい菌もあることや、微量な菌の検出が難しいという問題がありました。一方、子宮内フローラ検査では、次世代シーケンサーという最新の機器を使用しており、検体中にいる菌のDNAを調べることで、そこに含まれるすべての菌を一度に検出できるようになりました。元々無菌だと思われていたほど菌の量が少ない子宮内も、次世代シーケンサーにより、どのような菌がどのくらい存在するのかを調べることができます。またこれまで検出できなかった菌に対しても、適切な治療が行えるようになります。現在、子宮内フローラ検査は限られた医療機関でのみ受けることができます。医療機関で採取された子宮や腟の検体は、国内の検査会社に送られた後、2~3週間で医療機関に結果が返ってきます。
MiSeq

子宮内フローラが良くない状態だった場合の改善方法は?

子宮内や腟内にラクトバチルスが少ないと分かった場合には、菌に合わせた抗生剤の投与や、子宮内の洗浄、サプリメントの摂取、食事や生活習慣の見直しといった改善策が考えられます。子宮内の菌叢環境を改善するためのサプリメントの候補のひとつとして、ラクトフェリンがあげられます。ラクトフェリンは母乳に多く含まれる多機能性のたんぱく質で、赤ちゃんを菌から守る働きをしています。さらに子宮けい管からも分泌されており、子宮内への悪玉菌の侵入を防いでいます。このラクトフェリンを摂取することで腟・子宮内の悪玉菌が減り、ラクトバチルスを増やすことができると期待されています。実際、早産経験のある細菌性腟症の患者さんにラクトフェリンの投与を行うことで、腟内の細菌環境が改善して出産に至ったという研究結果が発表されています。

サプリメント

子宮内フローラで何がわかる?着床障害に関係する子宮内膜炎の原因までも?

子宮内フローラは、病院で行われる子宮内フローラ検査で調べることができます。実際、子宮内フローラ検査では一体どのような事がわかるのでしょうか。子宮内フローラについて詳しい札幌医科大学の遠藤俊明先生にお話をお伺いしました。

―――子宮内フローラ検査では実際に何が分かるのでしょうか?また、それは、他の検査ではわからないのでしょうか?

遠藤先生:従来の細菌培養検査では、一部の細菌しか見つけることができないことが少なくなく、限界を感じていいました。子宮内フローラ検査は、子宮内容液の中の細菌の遺伝子を調べることにより、子宮内にいる細菌のほぼ全てが一度の検査でわかります。この意味で画期的な検査です。その結果から着床障害や流産に関係する子宮内膜炎の原因菌を特定することに使えます。

―――どのような症状の方が、子宮内フローラ検査を受けると良いのでしょうか。

遠藤先生:不妊症の領域で最近大きな問題となっているのが、反復着床不全です。体外受精後に良好胚盤胞を難度移植しても着床しないことがあります。欧米の報告では着床前スクリーニングで染色体が正常の受精卵を移植しても、着床率は60~70%が限界と言われています。そのような場合は、子宮内膜に問題があり、その中で重要なものの一つが慢性子宮内膜炎と考えられています。また、流産を繰り返す不育症の原因を調べてみても従来の検査では約半数は原因不明となります。原因不明の不育症の中に、あるいは他に原因があっても慢性子宮内膜炎を合併している場合が少なくないことがわかってきました。また感染による早産を経験している方も、従来の細菌培養では原因菌を特定できないことがありました。そのため反復着床不全、不育症、感染性早産のような方にとって、子宮内フローラ検査が、子宮内にいる細菌を網羅的に調べることができる非常に有用なツールとなることが期待されています。

―――最後に、不妊治療を検討されている方、着床障害で悩まれている方へ遠藤先生からメッセージをお願いします。

遠藤先生:反復着床不全、不育症、感染性早産の方達に対して従来法の検査では、原因が特定できないことがしばしばありました。それで細菌培養検査は有用ではありましたが、細菌の検出率に限界を感じていました。そんなときに、近年は腸内フローラ検査をはじめ、いろんな臓器で健全な細菌叢(さいきんそう)の重要性が注目されるようになりました。子宮に関しても、子宮内も無菌ではなく子宮内細菌叢が重要であることが報告されています。最近、子宮内フローラ検査で子宮内細菌叢の乱れがわかるようになり、前記の疾患に対する治療法を決める大きな手がかりになることを知っておくことが大事だと思います。

 

着床障害に関係する子宮内膜炎の原因菌まで分かるということで、遠藤先生も注目されている子宮内フローラ。着床障害や不育症などに悩まれている方は、一度子宮内フローラ検査を受けることを検討しても良いかもしれません。

遠藤俊明先生のご紹介

遠藤先生

遠藤俊明
1979年 札幌医科大学医学部卒業・医師国家試験合格 医師免許取得
1989年 医学博士号取得(札幌医科大学)
1990年 米国イェール大学産婦人科留学
1999年 札幌医科大学産婦人科助教授(後に准教授)
2016年 札幌医科大学退職、エナレディースクリニック生殖医療顧問、札幌医科大学非常勤講師、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医
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