着床障害の原因の1つは、慢性子宮内膜炎?自覚症状はある?
2018/12/17
2018/12/17
着床不全や着床障害には様々な原因があります。着床障害の中でも、子宮内膜に問題がある場合には、子宮内膜ポリープ、粘膜下子宮筋腫などの原因があります。
そこで子宮内膜に問題がある場合について、着床不全や着床障害について詳しいリプロダクションクリニック大阪の院長、北宅弘太郎先生にお話を伺いました。
子宮内膜の炎症が着床障害の原因に?
妊娠に至るまでには、以下のようなプロセスがあります。
①卵巣から卵子が排卵される。
②卵子が卵管采(らんかんさい)へ取り込まれる。
③卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)で、精子と卵子が出会って受精する。
④受精した卵は2細胞、4細胞、8細胞、桑実胚(そうじつはい)へと分割を繰り返しながら、卵管から子宮へと運ばれる。
⑤約4日かけて受精卵が卵管から子宮に到達する。子宮に到着すると、受精卵は胚盤胞になる。排卵から5~7日前後で子宮内膜に絨毛(じゅうもう)の根っこを張り、着床に至る。
着床障害のうち子宮内膜に問題があるケースでは、子宮内膜にある炎症によって着床しない可能性があることがわかってきました。
着床には内膜に炎症が必要?
胚の着床には「内膜に一定の炎症が誘導されることが必要」であることが、動物実験などにより知られています。
このような炎症を誘導する手段として、「子宮内膜局所損傷/スクラッチング(胚移植の前の周期にキュレットという医療器具やブラシを使って内膜に部分的な機械的刺激を与える方法)」や「G-CSF」という薬剤を子宮内に注入する方法などが有効とされ、広く行われるようになってきました。有効かどうか確証を得るにはやはり大規模な調査が必要です。
着床に望ましくない炎症「慢性子宮内膜炎」。自覚症状は?
一方、胚の着床に望ましくない炎症として注目されているのが「慢性子宮内膜炎」です。子宮内膜には通常見られない「形質細胞」というリンパ球が侵入してくる炎症性疾患です。
慢性子宮内膜炎の特徴は、強い炎症が起きていても「自覚症状が乏しい」ことです。熱や痛みが出ることは極めてまれで、患者さん自身が気づきにくいのです。なおかつ良性の病変で、腹膜炎や全身性の炎症につながることはほとんどなく、病理診断がとても煩雑であることもあって、子宮の病気であるにもかかわらず産婦人科医からも重要視されてきませんでした。
しかし最近では、免疫組織化学という方法を用いて形質細胞(CD138陽性細胞)を同定する病理検査により、診断が簡単に行えるようになりました。国際的にも最も感度・特異度の高い方法で、客観性に優れます。
この方法を用いてわれわれが調べたところ、慢性子宮内膜炎は、3回以上連続して繰り返す「反復着床不全」の患者さんの34%、「原因不明不妊症」の28%、また「原因不明習慣流産」の12%に見つかりました。慢性子宮内膜炎が不妊症や不育症、さらに妊娠中の合併症にも関わる可能性があります。
さらにわれわれが検討した結果、慢性子宮内膜炎の治療に最も有効な薬剤が「ドキシサイクリン」であることが分かりました。残り1割の抵抗例に対しても他の抗生剤を工夫して同じく2週間内服することで慢性子宮内膜炎のほとんどが克服できています。
さらに、「慢性子宮内膜炎」が治ったのを再検査で確認した後に胚移植することで、治癒後初回の移植で33%、累回の移植で 39%が「(ただ妊娠するだけではなく)出産できる」ことも前向き研究で明らかになりました。
子宮内膜炎の原因は内膜の微生物感染?
慢性子宮内膜炎の多くは内膜への微生物感染が原因です。婦人科領域ではクラミジアや淋菌によって引き起こされる卵管炎や子宮頚管炎が有名ですが、「慢性子宮内膜炎」ではこれらの微生物の検出頻度は低く、反対に誰もが体にもっている細菌(コモン・バクテリア)や、マイコプラズマという微生物が起因となって発病します。
昨今、これらの微生物の構成比を一挙に遺伝子解析する「子宮内フローラ」が慢性子宮内膜炎の新たな診断法になるのではないかと期待されています。また「内膜マイクロポリープ」「苺状外見」などの子宮鏡所見と慢性子宮内膜炎の関係についても研究が進められています。
まとめ
- 着床には「内膜に一定の炎症が起こることが必要」とされている。
- 着床に望ましくない炎症として「慢性子宮内膜炎」があるが、患者自身の自覚症状がないためなかなか気づきにくい。
- 慢性子宮内膜炎を高精度で診断できる検査や、有効な薬剤(ドキシサイクリン)が明らかになってきており、治癒後の出産率についても良好な研究結果が得られている。
- 子宮内の微生物をまとめて調べる「子宮内フローラ」が、慢性子宮内膜炎の新たな診断法になるのではないかと期待されている。
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北宅弘太郎先生のご紹介
リプロダクションクリニック大阪
院長
略歴
1995年 3月京都府立医科大学医学部卒業
1995年 5月京都府立医科大学附属病院 研修医
2001年 3月京都府立医科大学 大学院修了
2003年 4月京都府立医科大学 大学院医学研究科 助手
2007年 4月京都府立医科大学 大学院医学研究科 助教
2008年 4月関西医科大学 助教
2010年11月 オーク会産婦人科 勤務
2010年11月 関西医科大学 非常勤講師
2011年 4月 京都府立医科大学 非常勤講師
2014年 8月 リプロダクションクリニック大阪 婦人科部長
◆資格・免許
医学博士
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
日本生殖医学会 生殖医療専門医
日本生殖免疫学会 評議員
母体保護法指定医
American Journal of Reproductive Immunology, Editorial Board Member
BioMed Research International, Editorial Board Member
Advances in Medicine, Editorial Board Member
Fertility and Sterility, Ad-hoc Editorial Board Member
Minerva Gynecology, Editorial Board Member
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