子宮筋腫、子宮内膜症に手術は必要?的確な判断で妊娠に導く|菊地盤
2019/11/08
2022/02/02
子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患を抱えている場合、果たしてどのように治療と妊娠を叶えていけばよいのでしょうか。メディカルパーク横浜の院長で内視鏡専門医である菊地先生に、今回、手術や術後の不妊治療について詳しくお話をお伺いしています。
不妊につながる婦人科疾患、どんなものが多い?
ー不妊治療における内視鏡手術が用いられるのはどんなケースが多いですか?
菊地先生:良性疾患だと思います。婦人科領域において子宮・卵巣を摘出する場合も多いため、子宮移植などを検討しないと、妊娠の妊孕性(にんようせい)の温存というのは難しいですね。
例えば、子宮頸がんに対しては妊孕性温存手術(トラケレクトミー)になり、すでに施行されている施設はありますが、まだまだ一般的ではありません。
婦人科は良性腫瘍に対する手術がすごく多い科です。例えば子宮筋腫の核出(かくしゅつ)によって、そのあと妊娠を考えるとか、卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)の手術の後に妊娠を考えるとか、そういう疾患を結構目の辺りにします。
そういった方々に、本当にちゃんとした治療を提供出来ているかと言われると、例えば卵巣が2つあるから、片方取ってしまおう、という先生はいまだにいらっしゃるんですよね。
その選択することで、卵巣は半分になってしまいます。 卵巣の中にある卵子の数も半分ということになると、将来的に採卵しようと思っても、採卵できる数が少なくなり、確率が下がってしまうことになるわけですね。
でも手術をする際にそこまで考えてくれるケースは少なくありません。そういう視点を持って患者様に対してアプローチできるというのは凄く重要なことなのです。そのため、不妊の知識と手術の知識を両方持った人間というのはやはり必要です。
全員の方にそういった治療を提供できないのは残念ですが、少なくとも当院に来て頂けたら、妊孕性の温存と不妊治療の組み合わせが提供できるわけです。
例えば20歳くらいでも、卵巣が腫れていて手術をするケースがあります。手術をすることで卵巣の機能が落ちてしまう、といったケースは、先に採卵をしておくとか、術中に採卵をするとか、併用してあげて良いと思うんですよね。
その対応が当院では可能です。20歳くらいで片方卵巣を取られていて、片方の卵巣嚢腫が再発しました、再発して2回位手術をし、AMHも0.0いくつしかない、という値の低い方に、手術前に排卵誘発をかけさせて頂いて、術中に採卵するんです。
卵巣嚢腫を取り除いて、その後卵巣の機能が落ちたとしても、卵子は凍結をしてとっておく、そういった保険的な対応を今まで行ってきました。
▶「あなたには何が一番必要なのか」患者目線の不妊治療|菊地盤
子宮筋腫や子宮内膜症、手術をすれば妊娠率は上がる?
ー 妊娠率というのは術後、改善するイメージですが実際はどうなのでしょうか。
菊地先生:子宮筋腫や卵巣嚢腫などが不妊に関係している場合は手術で改善します。 子宮内膜症の場合は、卵巣機能自体は落ちますが、その後の妊娠率には大きな影響はありません。
それは、早めに妊娠を考えるからであり、手術と不妊治療の併用が重要となります。というのも、子宮内膜症や子宮筋腫の患者様で妊娠を望む方の場合には、極力、妊娠をする直前に手術を行うことになるため、妊娠率が良くなる、ということです。
子宮内膜症にしても、子宮筋腫にしても再発するんです。だから、2度も3度も手術を受けさせるようなことをしてはいけません。妊娠を望む患者様に対して行う手術は1回だけ。その1回の手術の後に、できるだけ早く妊娠できたほうが良い。
ということは手術のタイミングを出来るだけ妊娠直前にもってきて、術前に採卵を行ったほうが良いということなんです。 そのため、手術はタイミングが重要なのです。
一方で既に卵巣の機能が落ちていたり、日常生活がままならない方は妊娠の前にでも手術を行ったほうが良いですが、多くの場合は再発防止をかけながら、早めの妊娠を目指すのが良いと考えます。
卵巣機能が低下しそうであれば、卵子凍結も併用したほうが良い、と考えています。
ー 最近では、子宮内膜症の方がピルを用いると症状が緩和されると聞きますが、まだ妊娠を望まない方の場合はピルなどを飲みながら再発防止をしたほうが良いわけですね?
菊地先生:そうです。引き伸ばして、すぐの妊娠を考えないのであれば、初潮が来てからある程度の段階でピルを使用して予防をしておくのが良いのですが、そうではない方々はせめて手術後に再発防止、ということです。
もし、他の病院で手術を行い、卵巣機能が落ちている方は卵子凍結も併用しておくと良いかなと。手術すると卵巣機能が低下するのでその前に採卵をする、というのが一つの考え方かなと思います。
妊娠できるかどうかはわからないけれども、せめて卵子凍結などで妊孕性のための保険をかけておいたほうがいい、という考えです。 今までは「卵巣が腫れているから手術をしなさい」と言われた患者様が、手術をした後に何年かして卵巣機能が低下していた。
そろそろ妊娠しようかなと思ったら「不妊治療しなさい。」と言われ「あなたの卵巣はほとんど機能していませんよ」というのが、よくあったパターンです。
なぜ最初にそのリスクを伝えてあげなかったのか。でもそれは、そのドクター側にも知識がない、不妊の知識と手術の知識の両方を持ち合わせていないことが問題かと思います。
癌治療を専門に行う先生方は、ともすれば根治術のために病巣を可及的に取り除こうとするがゆえに、機能温存が難しくなることがあります。 逆に、機能温存を使用とすることで病巣を残存させ、再発のリスクを高くしたり、そもそも手術の完遂度を落としてしまうこともあるのですが、そのバランスが重要だと思います。
FT(卵管鏡下卵管形成術)は高齢には向いていない?
ー 内視鏡手術はいくつか種類がありますけれども、卵管の詰まりを除くFTもこちらで行えるんでしょうか。
菊地先生:はい。行えます。ただしFTに関しては微妙な感覚を持っていまして、FTを行う患者様は間質部閉塞(子宮と卵管の境の閉塞)の方なんですね。
卵管水腫がない場合であれば、手術をせず、体外受精を行っても良いと考えています。 20代~32歳位だったらFTを勧めてもいいと思いますが、30代中頃過ぎている人に、FTを行った後、暫くタイミング法を、というのはちょっと違うんじゃないかな、と。
そういった方はART治療を先行して行ったほうが良いと思います。 理由は、ART治療での妊娠率も35歳すぎれば低くなるからです。そのため、30代後半の患者様の場合、時間的に考えても、FTの対象になる人は多くはないんですね。
ただ、卵管水腫の場合は腹腔鏡の適用になってきますが、ET(胚移植)をした時に卵管水腫があることによって、子宮内環境が悪くなって、着床不全を起こしそうだ、ということであれば、バンディング(卵管結紮)などを腹腔鏡でやったほうが良いこともあります。
卵管から逆流しないようにするような手術もできますので。そういったことはお勧めします。 卵巣腫瘍の核出術によって卵巣機能が低下するというエビデンスがあります。
子宮筋腫については、卵巣に直接影響はしませんが、筋腫の核出による子宮破裂などのリスクもありますので、やはり手術には慎重になった方が良い、という考えです。
もしパートナーがいるようであれば、手術より先に採卵をし、受精卵を作った状態で手術をすれば、卵巣の機能が落ちたとしてもその受精卵が妊娠のために使える、という状態にしておく。
子宮筋腫は、筋腫をとって妊娠をするまでにどうしてもタイムラグを生じてしまうんですね。傷の回復をして妊娠するまで1年位空いてしまうこともあります。
そうすると、先に採卵を行い、受精卵を作っておいて、その後筋腫の手術をして、その後胚移植を行うというのもあります。これがハイブリット治療という方法です。
そういった場合には、体外受精と腹腔鏡を組み合わせるのが良いのではないかと考えています。
場合によっては採卵をしてから、手術を行うハイブリット治療も
ー 筋腫の種類によっても状況は変わってきますよね?
菊地先生:そうですね。子宮の外側に向けて発達する漿膜下筋腫(しょうまくかきんしゅ)だったら、放って置いても大丈夫ですし。筋腫の有り/無しによっての妊娠率というのは非常に難しくて、絶対妊娠できないということではありません。
子宮筋腫の手術自体も子宮に傷を付けて子宮破裂のリスクもあるので、子宮腔内に何か影響を及ぼしていなければ、なるべく行わない方が良いとは思うのですけれど、必要な人にはやはり必要なんですね。
その代わり先程もお話したように子宮筋腫にしても子宮内膜症にしても再発するので、妊娠を前提で体外受精を辞さない覚悟でやって頂いたほうが、良いと思いますね。
年齢が32歳を超える場合はART治療と併用したほうが良いと思います。 症状がない筋腫に関しては、採るか取らないか悩ましい場合もあると思うのですが、そういう場合は、先に採卵をしてみる、ということも考え方の一つかなと思います。
手術の後も、不妊治療から妊娠まで診ることが大切
子宮の筋層内に発生する筋層内筋腫の場合は、手術をする立場から言わせて頂くと、小さいものを核出するのはとても難しいんですよ。子宮筋層を深く傷つけることになるので。
取った後、核出による子宮筋層の融合不全が予想される場合には、そのまま妊娠トライしていただいたほうが良いかもしれません。 うまい先生が手術をしてくれればいいけど、子宮破裂のリスクにもなるので、やっぱりそこは慎重にしたほうがいい。
手術をなんでもかんでもやりましょう、というのは危険です。 手術をさせて頂く立場としてはこの手術はきちんと最期まで妊娠・出産まで担保できる自信がないと手をだしてはいけない、と。
「手術をしました、後は不妊治療をやって下さい。」では駄目だと思うんですよ。だから私は自分で術後も含めて両方とも診なければいけないと思っています。
手術をした方が良いかどうか的確な判断をし、妊娠まで見届ける
ー そうしますと、メディカルパーク横浜の強みというのは、菊地先生が腹腔鏡専門医でいらっしゃっる、ということ?
菊地先生:結局、手術をする/しないではないと思うのですよ。手術をしたほうが良いのか、手術をした時にどうなるのかを、予見できるのかどうかだと思います。
私が直接手術するかどうかよりも、例えば子宮筋腫とか子宮内膜症で不妊としていらっしゃった患者様に対して、「手術をしたほうが良い」もしくは「手術をしないで不妊治療をやったほうがいい」「手術をするとこういうメリット・デメリットがありますよ」という事を、ちゃんとわかっていて話せるかどうかが重要だと思います。それは経験がなければいけないので。
お一人お一人の症状をお伺いし、超音波やMRIで判断をして、この方だったらこういう手術ができて、うまくいくだろう。逆にこういう方だったら、まだ手術しないほうが良いだろう。っていう判断を、手術ができる人間が言えること、それが強みです。
体外受精だけやっている先生だと「婦人科疾患は他の病院聞いてください。」となってしまうし、腹腔鏡しかやっていない先生だと手術後にそこから先の「不妊治療は不妊治療クリニックで聞いてください。」となってしまう。
これだとおそらく何かが落ちてしまう。 そこを落とさないで手術をしないという選択肢を含めて検討できるというのが多分良いと思います。 誰にもここは文句を言わせない自信があります。
ー 患者様もそう言われると安心ですね。最後に患者様にメッセージをお願いします。
菊地先生:強みなのか弱みなのかわからないですけど(笑)、医師は私一人しかないですから、先生によって言っていることが違う、ということはないです。また、スタッフも大変気さくな方が多く、ベストな方がここに集まっていると感じます。
今はお一人お一人にかけるお時間も取れますので是非気軽にお越し頂き、ご相談ください。
子宮筋腫や子宮内膜症を抱えていても、妊娠できる方法として、ART治療と組み合わせることで妊娠の可能性を高めるハイブリット治療を行う菊地先生。また、手術をすればいいのかどうかの判断を的確に行い、その方に合った治療を提供できる強みは、患者にとって頼もしい存在なのではないでしょうか。
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菊地盤先生のご紹介
院長 菊地盤
経歴
順天堂大学医学部卒業 順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授) 順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を経て メディカルパーク横浜院長、順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
所属学会
日本産科婦人科学会、日本産科婦人科内視鏡学会、日本生殖医学会、 日本癌治療学会、日本内視鏡外科学会、日本がん生殖医療学会、 日本生殖カウンセリング学会、米国婦人科内視鏡学会
専門医、認定医など
産婦人科専門医、生殖医学会生殖専門医、婦人科内視鏡学会技術認定医、日本産科婦人科内視鏡学会幹事、武内賞選考委員会委員、技術認定医制度委員会委員、教育委員会委員、ガイドライン委員会委員(2019 年度版ガイドライン策定)、日本内視鏡外科学会用語集改定委員、癌治療学会小児思春期,若年がん患者の妊孕性温存に関するガイドライン作成 WG 委員(2017 年度版ガイドライン策定)、がん生殖医療学会理事、不妊カウンセリング学会理事、ベストドクターズ 2018-19
メディカルパーク横浜のご紹介
住所:神奈川県 横浜市 中区桜木町 1 丁目 1 番 8 号 日石横浜ビル 4 階
電話番号:045-232-4741
公式サイト:https://medicalpark-yokohama.com/
詳細ページはこちら
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