不妊治療は一人一人違って当然?不妊治療の個別化とは
2019/06/06
2019/06/06
「不妊治療って一体どのような事をするんだろう」「私はなぜこの検査をするんだろう」など、いざ不妊治療を決意した瞬間、治療の入り口で不安や疑問を抱える方も少なくないのではないでしょうか。そんな方に読んでいただきたいのが「不妊のトリセツ」です。この本の中で「不妊治療の個別化がとても大切だ」と触れられています。そこで今回、著書でフェニックス アート クリニックの院長でもある藤原先生に「不妊治療の個別化」についてお話をお伺いしています。病院を選ぶ前に、是非参考にして下さい。
治療方法は患者によって異なる。本来、一緒くたにはできない
ー 藤原先生は著書である「不妊治療のトリセツ」のなかで「不妊治療の個別化」が大切だとおっしゃられていますが、「不妊治療の個別化」というのはどのような治療を指すのでしょうか。
藤原先生:そんなに難しいことを指しているわけではないんです。
不妊症というのは1つの病名なのですが、実態は、患者さんの年齢が違う、何が原因かも違うという、色々な要素の集合体なんですよね。
だから、一括りに「あなたは不妊だからこういう治療ね」という言い方は絶対にしないんですね。
治療を提供する側からみて、一番簡単な方法としては、クリニックで行う治療内容を絞って決めて「これをやります。これ以外はやりません」という方法です。実際そのような施設も沢山あります。
ただ、それは、患者さんにとって、その治療方法が最大公約数にすらなってないかもしれないのです。要するにその絞られた治療内容に合う人はいいんだけれども、合わない人は、はじかれてしまうんですね。
実際に患者さんの中には、年齢が高齢の人もいらっしゃいますし、不妊原因も男性不妊がある場合もあります。また、女性の場合、子宮に原因がある人など、様々な原因があります。それらの治療方法を一緒くたにするというのは、本来は間違いなんですよね。
だからこそ、ある意味、私達の挑戦ではありますが「個々に合わせて、なんでもやります」と。
なんでもやるというのは、「Aという患者様がいて、その患者様の原因がこうであった。結果、ベストだと思われる治療方法はこういう方法がいいだろう、ただ、この治療方法は結構煩雑だよ」ということになった場合でも、それがその患者様に合う最適な方法なのであれば、たとえ煩雑でもその方法を選択し、行っていきましょうというということです。
患者様それぞれ、カップルごとに不妊の原因が違うわけですから、何がポイントなのか、何が大事なのかを掴んだ上で、それそれの患者様に対して見合った治療を考えましょう、という、ある意味当たり前のことなんですよ。多くのクリニックでは当たり前のことができていないというのが現状ですね。
治療方法が大変だからやらないのは医療サイドの怠慢
一人一人の患者様に対して同じ治療方法を取る場合は、たとえば、看護師やその他のコメディカルのオペレーションも、すべてがマニュアル化できる。
一方で、患者に合わせて治療方法のバリエーションがあると、看護師やその他のコメディカルがそれらを熟知するために、トレーニングも相当必要になる上、時間もかかります。
ニーズにあった医療を提供することが「不妊治療の個別化」
個々の患者に合わせて違う方法で治療を行うことは、大変なんだけれども、大変だからやらないというのは医療サイドの怠慢だと私は思っているんですよね。
例え煩雑な方法であったとしても、実際に患者様の目線に立てば、ニーズに合っているわけだから、ニーズに合った医療を提供すること、それがまさに「不妊治療の個別化」ということの本質なんです。
私は今までの経験や流れがある中で開業しましたが、自分の職業人生の後半に差し掛かることは間違いないので、あえて、煩雑だけれども、挑戦しよう、と思っています。
ー 一般的に人工授精、体外受精、などステップアップの流れがあると思いますが、なかなか患者様の状況を個々に合わせて治療を判断をすることは難しそうな印象ですが。
藤原先生:それは、医師の経験によりますよね。百戦錬磨で妊娠できなかった、という患者様もいるわけですから、簡単な状況の患者様ばかりではないわけです。
クリニックによっては「難しい」と言われる場合であっても、私自身で結果を出せるかはわかりませんが、私なりにその患者様の不妊原因や状況を把握して、治療の提案ができるまでには至りたいなと。
私のご提案に対して患者様が同意されればやりましょう、ということですね。
体に負担が少なく優しい方法では妊娠しにくい人もいる?
ー 「不妊治療の個別化」を念頭に、患者目線で病院を探す場合、例えばクリニックが推奨している採卵方法や刺激法が必ずしも合うとは限らないこともありますよね。
刺激をしない方法はメリットもあるが、デメリットも
藤原先生:例えば、調節卵巣刺激*には低刺激や刺激をしない、自然周期で行う方法があります。
この方法のメリットとしては、患者さんへの負担が少ないんですね。
通院回数が少ない、薬の投与量が少なくて済む、採卵も(これはいいかどうかわかりませんが)無麻酔で行います。
この場合、細い針を使っており、採卵する卵子の数が少なく最低限の時間で完了するため、患者さんの負担が少ないので、麻酔も少量で済む、というクリニックもあります。
患者様には確かに負担が少なく優しい、その上、高い妊娠率であれば良いのですが、残念ながら海外の統計を見ても、体外受精に1回トライして、1回あたりの妊娠率ということでいうと、自然周期をメインにしているところは、人工授精並の妊娠率*2なんですよね。
患者様が「1回1回の身体の負担は少なく、採卵回数は多くなっても構わない」とご自身で理解・納得している場合であれば構わないと思います。
ところが、全員が全員その方法に賛同するとは限らないわけですね。中には「私は一時的に負担が大きくてもいいから、頑張って、とにかく出来るだけ高い効率でやりたい」という方もいる。ところが、そういった施設では、転院せざるを得なくなってしまう。
患者様のニーズ、状況に合わせて治療方法が選べること、それが大切
患者様の立場に立った時に、「一度に沢山採卵できる方法でしたい」といった違ったニーズに全て答えられないというのはいかがなものかなというのが私の意見です。
なぜなら、統計上は強い刺激で一回で採卵した方が、1回の体外受精あたりの妊娠率が高いということが明白なのです。
ただ、逆に全員に強刺激をやればいいのかというとまた違います。
私が患者様を診る中で経験していますが、年齢的にも若くて比較的卵も育ちやすい、といった方でも、中には「強刺激方法ではストレスが強く、お腹も腫れるし私には合わない」という方もいらっしゃいます。
それでうまく行かない場合は、逆に低刺激法や、自然周期法で採卵を行う、というケースもあります。
卵胞が沢山育つのだけれども、本人が希望されないから、こちら(低刺激)も選べる、と。強刺激しか選べない、低刺激しか選べないというのは適正ではないと思いますね。
患者さんにとっては、負担が少ないというのは大切なことですがそれ以上に、結果が大事なのではないでしょうか。
*調節卵巣刺激・・・体外受精において卵胞の発育を見ながら排卵誘発剤を計画的に使用する方法。
*2人工授精の妊娠率・・・1周期あたりの妊娠率は5〜10%。
藤原敏博先生のご紹介
<略歴>
東京大学医学部卒業、医学博士
前山王病院リプロダクション・婦人科内視鏡治療センター・センター長
前国際医療福祉大学 臨床医学研究センター 大学院教授
元東京大学医学部附属病院女性診療科・産科講師・周産母子診療部IVFセンター長
<所属学会・資格>
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医[腹腔鏡・子宮鏡]
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本生殖医学会 代議員
日本受精着床学会 理事
日本IVF学会 理事
日本産科婦人科内視鏡学会 評議員
日本卵子学会 評議員
日本不妊カウンセリング学会 理事長
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