不妊治療と自然妊娠 生まれた子どもに違いはあるか。
2023/12/07
2024/02/13
「不妊治療で生まれた子供と自然妊娠で生まれた子どもに違いはあるのか。」
不妊治療を始めようと考えた時、また、クリニックから勧められた時、生まれたきた子供に何らかの影響があるのではないかと不妊治療に対して不安を感じるという方がいらっしゃるのではないでしょうか。
「体外受精で妊娠した子どもの場合、障害がある確率は高いですか?」
「不妊治療は、自然妊娠での出産よりも子供に影響を与えてしまうようなリスクはあるのでしょうか?」
という様な質問を多くいただきます。
では、実際にはどのような影響が考えられるのでしょうか。
まずは、不妊治療の主な種類と手順、自然妊娠との違いについて確認をしていきましょう。
人工授精
人工授精とは、女性側の排卵の時期に合わせて、洗浄濃縮したパートナーの精子を子宮内に注入する方法です。自然妊娠との違いは精子が入る場所だけで、受精から妊娠までの過程は全く同じであるため、限りなく自然妊娠に近い方法だと言えます。
自然妊娠では膣に精液が入り、そこから精子が子宮に到達するのに対し、人工授精は直接子宮に精子を注入しますので、精子と卵子が出会う確率が上がります。
体外受精
体外受精は、体外で受精した受精卵を直接子宮に移植する方法です。自然妊娠との違いは、受精や分割の段階で人の手が入るところにあります。体外受精の影響が心配になる方が多くいらっしゃる様です。
では、体外受精で生まれた子どもとそうでない子どもとにはどういう違いがあるのでしょうか、いくつか分かっているデータをもとに分けてまとめていきます。あくまでこれらは調査の結果をまとめたものです、必ずしもこれらのことがご自身に降りかかるというわけではありませんのでご理解いただきたいです。
新鮮胚移植では出生児の体重が軽い
採卵の周期に胚移植を行う方法である新鮮胚移植の場合は出生時の体重が自然妊娠よりも軽いことがわかっています。
凍結胚移植では出生時の体重が70g程度多い
凍結胚移植は、採卵で得られた受精卵(胚)を胚盤胞まで培養し、凍結保存するものですが、こちらと自然妊娠では、凍結胚移植によって生まれる子の方が出生時の体重が70g程度大きいことが、2008年から行われている追跡調査で分かっています。ただ、生後18ヶ月になるとこの体重差は無くなるということも分かっています。
凍結胚移植による出生児、自然妊娠児、新鮮胚移植による出生児の体重には有意な差が認められ、その原因として、妊娠初期のhCGの上昇開始時期に差があることが分かりました。このことから、体外受精の操作手技は、hCGに関わる遺伝子の発現に影響を与えているものと推測され、今後さらなる研究が必要と思われます。
しかし、この結果が、体外受精は安全ではないということを意味するものではありません。むしろ、この差が生じる仕組みを解明することによって治療法の影響を理解し、安全性をより高めるための技術開発につながることを期待しています。
双子の妊娠が増える可能性がある
体外受精による胚移植やアシステッドハッチング※などの技術によって双子を妊娠する可能性が増加すると考えられていますが、まだわからないことが多くあります。
複数の胚を移植しただけではなく、1つの胚を移植した場合でも双子になる可能性があります。
※胚が着床できるよう透明帯からの孵化(ハッチング)を補助(アシスト)する方法で、具体的には透明帯の一部を薄くしたり切開したりする技術のことです。
透明帯は母体の年齢上昇による肥厚・硬化や凍結融解による硬化といった報告が多くされており、そのような胚に対してアシステットハッチングを施すことによって移植胚の着床率改善を図ることができると考えられています。
出生児の性別の比はほぼ変わらない
アメリカの調査では、受精卵診断を実施した10,266人のうち53.5%が男児、受精卵診断を実施しなかった204,008人のうち50.6%が男児でした。
また、2006-2014年の間、生殖補助医療にて生まれた児のうち男児の割合は50.5%〜51.2%で推移したそうです。この数値からもわかるように、男女比はほぼ変わらないことがわかっています。
初期流産の可能性は変わらない
自然妊娠でも体外受精の妊娠でも初期流産の可能性は変わらないことがわかっています。
受精卵は1日経つごとに細胞分裂をしていきます。正常に育っていく卵もあれば、途中で分裂しなくなる卵、正常な形で分裂していかない卵と、1つ1つが異なっていきます。
例え体外受精で胚盤胞まで正常だったとしても、その後のことは確認することはできません。
自然妊娠ならなおさら、全くわからない状態です。
精神発達については自然妊娠と変わらない
体外受精で生まれる子供は発達障害の子どもが多いという噂を耳にしたことがある人もいるかもしれません。
しかし日本で体外受精と発達障害とを直接結び付けるようなデータはなく、むしろ体外受精や顕微授精を行って誕生した子供の先天異常の出現率は全体の約3%であり、自然妊娠で生まれた子供のケースと差がないという数値が出ています。
精子や卵子が作られる段階での遺伝子の異常による子どもへの影響の可能性がある
高齢出産や排卵誘発剤の使用、男性因子などさまざまな要因で、遺伝子の誤作動による病気の可能性があることがわかっています。
夫婦のどちらかまたはふたりともに遺伝子疾患がある場合は、病気や症状が子供にも遺伝してしまうのではないかと心配になる人も多いかと思います。
しかし受精卵に遺伝子的な異常があるかどうかは着床前診断をうけることで、着床(=妊娠)前に確認をすることができます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
不妊治療を検討、または進めていくにあたり、
このようにデータを並べているのを見ると、少し不安になってしまうこともあるかと思います。
体外受精で生まれた子どもたちがどのように生きているのかはこれからも調査が続いていくところです。今回は現段階でお伝えできることをまとめてみました。
ここが一番大事なポイントですが、自然妊娠であればすべての可能性がゼロになるということではない、ということです。
また、体外受精、顕微授精、凍結胚移植、胚盤胞移植といった技術そのものというよりは、主に、親の年齢など不妊にかかわる要因と多胎妊娠、およびそれによって生じる妊娠合併症や母体内での胎児の発育不全に起因する可能性などその他の様々な影響もあるということです。
私たちが健康な子どもをと願うことはごくごく自然なことです。きっと誰しもが願うことではないでしょうか。ですが、全てのリスクを排除することは難しいです。必ずリスクは伴うものです。それは人間が別の人間を創る上で、計り知れない多くの要因と現象が絡み合っているからです。私たちはこのようなデータを必要以上に恐れることなく、そして、体外受精による影響、それ以外の影響、避けられないリスクなどを知識として取り入れ、理解した上で、自分は、自分たちはどのような選択肢を取るかを考えていくことが重要です。
こういったことは、いざ不妊治療という選択を持ったその段階で感じることであり、それまでの日常生活の中ではあまり考えることはないかもしれません。
不妊治療にまつわる様々なことは専門的な知識や情報が重要です。だからこそ、専門家と一緒にじっくりと考え、話し合った上で自分自身で納得した妊活をしていただきたいと思います。
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