胚盤胞移植とは?グレードによる妊娠率の違いやメリット・デメリットを解説
2019/02/23
2019/02/23
体外受精・顕微授精において、近年主流になりつつある胚盤胞移植。この記事では「胚盤胞とは何か?」「初期胚移植との違い」「グレードによる妊娠率の違い」を解説します。
「胚盤胞移植」と「初期胚移植」
自然妊娠の場合、受精卵(胚)は卵管を通過しながら胚となり、細胞分裂を繰り返します。成熟した胚は胚盤胞(はいばんほう)へと変化して子宮に届けられて着床し、妊娠が成立するのです。
一般不妊治療といわれる「人工受精」は、事前に採取した精子を排卵のタイミングに合わせて子宮や卵管に注入し、受精する確率を上げる方法です
一方、生殖補助医療といわれる「体外受精」や「顕微授精」では、受精卵を培養して胚に成長させてから子宮に戻す、「胚移植」が行われるのです。胚移植は「初期胚移植」と「胚盤胞移植」の2通りがあります。
胚移植を行う場合、卵子を採取し受精処置を行なった後、受精卵が確認できたら培養します。採卵して2日目には受精卵が細胞分裂を起こし、2〜4分割の「初期胚」になります。
「初期胚移植」
初期胚移植は細胞分裂が始まった初期の胚を子宮の中へと戻す方法です。いくつも初期胚ができたときには、形や分割の進行などから良質であろうと推測される胚を原則1つ(最大2つまで)だけ戻します。
今までは胚移植=初期胚を移植する方法でしたが、近年では培養技術が発達し、初期胚以降も培養ができるようになりました。
「胚盤胞移植」
初期胚以降も培養を続けることで、さらに細胞分裂を繰り返した胚は、採卵後5日目には「胚盤胞」へと変化します。
胚盤胞は、自然妊娠した受精卵が子宮に運ばれて着床する直前の状態と同じです。そのため、受精卵を胚盤胞まで培養して移植することで、より自然に近い着床が可能になるのです。
「出典:第66回日本産科婦人科学会学術講演会 専攻医教育プログラム 生殖補助医療 URL http://jsog.umin.ac.jp/66/handout/8_1Dr.shibahara.pdf (最終閲覧日 2019年1月28日)」
初期胚移植の方法と同じく、胚盤胞も子宮に戻すのは原則1つだけ。初期胚を選ぶ基準には「Veek分類」が、胚盤胞を選ぶ基準には「ガードナー分類」が使われます。
近年では胚盤胞移植が増えています。理由は胚盤胞は初期胚に比べて、着床率が2倍高いからです。胚盤胞は子宮に着床するのに適した状態に近く、胚自体がすでに生き残る力を持っているので着床しやすいのです。
そのため、一度の移植に使用する胚を必要最低限に減らすことができ、多胎妊娠のリスクが抑えられます。
「出典:総合病院 聖隷三方原病院 よくある質問 リプロダクションセンター URL http://www.seirei.or.jp/mikatahara/activity/reproduction/faq/index.html(最終閲覧日 2019年1月28日)」
胚盤胞のグレード
複数個の胚盤胞ができたとしても、子宮に戻すのはたった1つだけ。より質の良い胚盤胞を選ぶため、胚盤胞の成長の程度でグレードが定められています。その判定基準として、主に「ガードナー分類」が用いられます。
ガードナー分類とは、胚の発育スピードを数字で、細胞の量をアルファベットで分けたもの。
数字は1〜6段階に分け、発育が進んでいる胚盤胞は数字が大きくなります。発育スピードが速いグレード3以上は、さらにA~Cの3段階で細かく分類されます。細胞数が多いとA、少ないとCです。
例えば「3BC」や「4AA」と表記されているなら、左のアルファベットは胎児の身体になる「内細胞塊(ないさいぼうかい)」。右のアルファベットは胎盤になる「栄養外胚葉(えいようがいはいよう)」の状態を表しています。
胚盤胞移植を行う際は、ガードナー分類を用いたグレードを参考にして、移植する胚盤胞を決定します。それぞれのクリニックによってグレードを選ぶ基準は異なりますが、一般的にグレードの良い胚盤胞(4以上・B以上)から優先します。
理由は、グレードの良い胚盤胞ほど着床率(≒妊娠率)が高くなると報告されているからです。クリニックによって、4以上のグレードでもCの胚盤胞は使用しないところもあれば、3でもAAであれば時間をかけて培養するところもあります。
たとえ胚盤胞のグレードが悪くても、成長スピードが遅いだけで妊娠する可能性はあります。逆に胚盤胞のグレードが良いからといって、染色体異常(流産)のリスクが無いわけではありません。
移植する胚盤胞の選定基準は、クリニックの方針によってかなり異なります。気になることがあれば、質問や相談をしてみましょう。
「出典:医療法人 オーク会不妊診療技術最前線ルポTOP 後編「胚培養士に聞く、体外受精、顕微授精」 https://www.oakclinic-group.com/funin-repo/f-repo003_baiyoushi-02.html (最終閲覧日 2019年1月28日)」
胚盤胞移植のメリット・デメリット
胚盤胞移植のメリット
すでに説明した通り、従来の胚移植に比べて着床率が2倍高い胚盤胞移植ですが、妊娠率も非常に高いことが明らかです。
初期胚移植が20〜25%の妊娠率に対して、胚盤胞移植は30〜60%とかなり高い確率で妊娠が報告されているそうです。質の良い初期胚の着床率は高いのに、初期胚移植の妊娠率は低いのです。
これは質の良い初期胚であっても、妊娠が継続できるとは限らないことをあらわしています。質の良い初期胚を体外で培養しても、胚盤胞まで成長しないことはよくあります。子宮でも同じように、良質な初期胚を移植しても妊娠に至らないケースはよくあるのです。
受精卵が胚盤胞まで成長すること自体が、すでに自然選別されている状態。胚盤胞まで成長できているからこそ、1つの胚が妊娠を継続できる確率も高いのです。
胚盤胞移植はもともと、アメリカで不妊治療の際に起こる多胎妊娠の数を減らすために考えられた方法です。
胚移植は原則1つの胚を移植することが決められています。しかし年齢や治療の回数によっては、妊娠率を上げるために複数個の胚を移植することがあります。これにより多胎妊娠の可能性が高くなってしまうのです。
胚盤胞移植は1つの胚の妊娠率が高いおかげで、複数個の胚を移植する必要がありません。つまり多胎妊娠を減らすことにもつながっています。
「出典:総合病院 聖隷三方原病院 よくある質問 リプロダクションセンター URL http://www.seirei.or.jp/mikatahara/activity/reproduction/faq/index.html(最終閲覧日 2019年1月28日)」
胚盤胞移植のデメリット
メリットばかりに感じる胚盤胞移植ですが、もちろんデメリットも。
受精卵が胚盤胞まで成長する確率は、全体数のおよそ30〜50%。受精卵の数がある程度ないと、胚盤胞すらできない可能性があります。つまり、排卵を誘発して1度にたくさん採卵ができる人には向いていますが、そうでない人には適した方法ではないのです。
胚盤胞まで成長させるとなると、初期胚より培養の期間が長いので費用がかかります。場合によっては胚盤胞ができないこともあり、高いお金をかけても胚移植の予定がキャンセルになることも。
また、多胎妊娠の確率が少ないとはいえ、一卵性の多胎妊娠の可能性は少なからずあります。同じ胎児数でも、一卵性の多胎妊娠は二卵性に比べて妊娠中の合併症が起こりやすく、母子共に負担が大きいのです。
ほかにも胚を培養をする時間が長くなると、遺伝子に異常があらわれるリスクも示唆されています。まだ治療自体が新しいので、さまざまな研究が進められており、はっきりとしていないことも多いのです。
「出典:総合病院 聖隷三方原病院 よくある質問 リプロダクションセンター URL http://www.seirei.or.jp/mikatahara/activity/reproduction/faq/index.html(最終閲覧日 2019年1月28日)」
まとめ
基本的には、まず初期胚移植を何度か受けて妊娠しない場合に胚盤胞移植に移行するケースが多いでしょう。クリニックや不妊治療の状況によっては初期胚移植を行わず、先に胚盤胞移植をすることもあります。
自分たちの不妊の原因や体外受精の治療の結果をみながら、医師やパートナーと相談して最適な方法を選択できると良いですね。
執筆者
小坂 恵
看護師。総合病院(婦人科、外科、脳神経外科、整形外科、放射線科など経験)で6年勤務し、出産を機に退職。その後、美容皮膚科・形成外科クリニックと訪問看護ステーション(ダブルワーク)で看護師として復職し、現在6年目。看護師を続けながら、Webライターとして美容、医療、健康系の記事を主に執筆。美容の認定専門家として記事監修・コメント執筆を行っている。
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