顕微授精をした方がいい場合ってどんな場合
2023/12/19
2024/02/13
はじめに
体外受精の歴史は、1978年に世界で初めてイギリスで体外受精により生まれたことから始まります。一方、顕微授精ははじめて妊娠し誕生したのは1993年と体外受精と比べると比較的新しい技術になります。
当時、精液所見が良くない男性因子が要因で従来の体外受精をしても成果が得られなかったカップルにとっては受精の期待ができる画期的な方法でした。
今日では、顕微授精は不妊治療をする上では切っても切り離せない技術の一つになっており、様々な研究や技術の開発によって顕微授精は安全でより良いものになってきています。
顕微授精とは?
顕微授精とは、正確にいえばたくさん方法はあるのですが、一番ポピュラーなものといえば「卵細胞質内精子注入法(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)」というものが挙げられます。
これは、細いガラス針を用いて顕微鏡で見ながら1つの精子を卵子に直接注入する技術をいいます。
従来の体外受精法(精子を卵子にふりかける方法)との大きな違いは、受精の方法になります。
不妊治療は、大きく分けると「一般不妊治療」と「生殖補助医療」段階的に2つに分かれていて、顕微授精は「生殖補助医療」の技術の中でも高度な位置づけになっています。しかし、今日では体外受精法と顕微授精法は同等と思っている方も少なくありません。
適応について
各不妊施設や担当医によって考え方が多少異なることもありますが、しばしば用いられる適応について説明します。
・精液所見が不良(男性不妊)
これは顕微授精の一番の意義となります。
顕微授精は、卵子1個に対して生存精子が1つでもあれば受精できるというメリットがあり、精子数が少ない乏精子症、運動率が不良な精子無力症、奇形精子が多いなど男性因子で主に用いられます。
・精子DNA断片化が高い
見かけ上精液所見の運動率が良好な精子であっても、精子DNA断片化が高い場合があります。
DNAの断片化とは、精子の核となるDNAにダメージを受けた精子のことをいい、卵子の受精卵の発育または妊娠・流産に影響を及ぼす可能性が報告されています。
こういった症例に対しては、現在先進医療の項目にもなっているヒアルロン酸または強 拡大顕微鏡などを用いた、1つのより良い精子をピックアップして卵子に注入することで改善が期待されています。
・体外受精で受精障害(受精率ゼロまたは不良)
精液所見が良好であっても、体外受精では全て受精しない症例もあります。
また、施設によって偏りがありますが、体外受精の受精率は50~80%と言われています。
体外受精の受精率を下回る場合でも適応になってくることがあります。
これは卵子側、精子側見かけ上では特に問題なくても何らかの異常があることで起こります。
・女性側の年齢が高い
年齢が上がると、妊娠・出産の成功率はどんどん下がっていきリスクも上がるため、不妊治療は早めに取り組むべきなのですが、近年晩婚化が進み治療を始める時期が遅くなった場合には、顕微授精をすすめることがあります。
しかし、年齢だけでは受精の良し悪しは計れないため本来こういった理由ではあまり好ましくはありません。
・採卵の数が少ない
体外受精よりも顕微授精の方が、受精率は1~2割程度高い傾向にあります。
受精が成立しないと治療がそこで中止になってしまうため、採卵の個数が1個または2個の場合には、受精率を上げる目的として用いられることもあります。
デメリットやリスクはないの?
顕微授精は、体外受精と比べ受精率が向上するといういい面がありますが、その一方でいくつかのデメリットやリスクもあります。
・卵子へのダメージ
卵細胞質を破くために一度吸引を掛けさらに針を直接細胞質内に注入するため、物理的なダメージが全くないとも言い切れません。
そのため、時として卵子が変性してしまうリスクが伴います。
卵子が変性してしまった場合には、そこで治療が終了となってしまうのです。
・卵子が未熟だった場合
通常、未熟な卵子は受精する能力を持たないため顕微授精は行いません。
施設によっては成熟するまで待ってから顕微授精を実施することもあるようですが、培養成績が良くないことが多いことと、培養士の負担があまりにも大きくなるために広くは行われていません。
・術者の技量の違い
各施設や術者によって、顕微授精の受精率は60%~90%と大きく開きがあります。
顕微授精は、胚培養士の技術の中で習得難易度が高いものの一つになります。そのため熟練した高い技量が必要になるためです。
さいごに
はじめて顕微授精が登場した時と比べると、目まぐるしく技術は進化し成績も向上してきています。
生殖補助医療の分野は、まさに日進月歩です。
今後は、もしかしたら今回説明したようなデメリットやリスクがなくなってくる日が来るかもしれません。
我々胚培養士は、常に最高の技術が提供できるよう努めております。
保険適用化になって、ただ何となく治療されている方もいらっしゃいます。
患者側はきちんとした知識を理解し、医療者と協力して適切な治療を受けられることを願っています。
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