人工授精とは?治療の流れとやり方、タイミング法との違い
2018/12/19
2024/09/28
そろそろ子供が欲しいと思ってタイミング療法をしているのに、なかなか妊娠しないと不安な気持ちになりますよね。人工授精へのステップアップを医師に勧められても、実際にどのようなことをするのか分からないことだらけ。「人工」という言葉の響きにもとまどい、治療に踏み出せない女性も多くいます。
この記事では、人工授精をする場合の受診頻度や人工授精当日の流れ、タイミング法からステップアップする時期やその理由を解説しています。人工授精について知り、仕事と両立しながら治療を受ける参考にしてみてください。
人工授精(AIH)の治療は自然妊娠に近い方法
人工授精とは
人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)は、事前に採取した精子を排卵のタイミングに合わせて子宮や卵管に注入し、受精する確率を上げる方法です。人工授精までの手法を一般不妊治療と呼びます。 「人工」というと大掛かりに聞こえるかもしれません。しかし、子宮内における卵子と精子の出会いを助けるという、非常に自然妊娠に近い治療です。体への負担が少なく、治療にかかる費用も少ないのでチャレンジしやすいでしょう。不妊治療としてもタイミング法の次に選択されることが多いです。
タイミング法と人工授精の違い
不妊治療でまず初めに行うタイミング法は、生理周期や基礎体温をつけることにはじまり、排卵チェッカーや通院による検査(尿検査、超音波検査など)などで排卵の時期を予測し、性交するタイミングを計る方法です。
人工授精の場合も排卵時期を予測することが大切です。自然排卵のタイミングに合わせる場合と、卵子が成熟した段階で薬で排卵を誘発してタイミングをとる場合があります。排卵のタイミングに合わせて、精子を子宮または卵管に注入して妊娠しやすい環境をつくります。
さらに妊娠する確率を上げるために、事前に精子を採取し、受精に必要な活発な精子を選定します。選ばれた精子を濃縮して混濁液を作り、精子が卵子に到達する確率を高めることができるのです。
不妊の原因はさまざまです。その原因によって、タイミング法で妊娠できるのか、それ以上の治療が必要なのかが決まります。タイミング法で妊娠ができないとなれば、人工授精や体外受精などの治療が必要になってきます。できれば次の治療に踏み込む前に、不妊の原因を調べておくことをおすすめします。
人工授精で妊娠できる可能性は20%
実は人工授精をしても妊娠できる確率は全体で20%程度で、決して多くありません。基本的に1回の人工授精で妊娠する確率は5~10%です。
妊娠した8割以上の女性は4~6回までに妊娠が成立しているので、回数をたくさん行ったところで妊娠できるわけではありません。(出典:日本産婦人科学学会/10.人工授精2.AHIの妊娠率 http://www.jaog.or.jp/lecture/10人工授精/)
人工授精をしたほうが良い不妊症
人工授精にステップアップすることで妊娠する可能性が高くなる不妊は、性交では受精することが難しいけれども、精子も卵子も機能的には問題がない場合です。
特に20代のうちであれば卵子の機能も良好なことが多く、非常に高い確率で妊娠できます。 女性が原因の不妊症であれば、卵子が成熟しないためにおこる「排卵障害」。男性原因の不妊症であれば、精子の量が少ない・運動能力が低いなどの「軽度の精子欠乏症、・精子無力症」。また性交痛・射精障害などによる「性交障害」があげられます。
人工授精では妊娠できない不妊症
卵子や精子が機能的に受精や着床することが難しい状態、例えば「重度の精子欠乏症・無精子無力症」であれば、いくら事前に精子を選定・濃縮したところで妊娠に必要な量の精子が採取できないので人工授精は適しません
。 ほかにも「ピックアップ障害」「受精障害」「卵管が詰まっている・卵子の質が低い」などの診断をされている場合は、人工授精をしても妊娠する確率は非常に低いため通常は体外受精となります。
特に診断名がついていなくても、年齢が上がるにつれて卵子の機能は低下するので、受精・着床できる確率が下がります。女性が40代になると、人工授精しても妊娠する確率は10~15%まで下がってしまうことが分かっているのです。 (出典:日本産婦人科学学会/10.人工授精/2.AHIの妊娠率 http://www.jaog.or.jp/lecture/10人工授精/)
人工授精で妊娠できないなら体外受精
不妊の原因が検査などで分かっており、人工授精での妊娠が望めない場合には医師から体外受精をすすめられるでしょう。 体外受精は、その名の通り卵子と精子を体外で受精させてから子宮に受精卵を戻す方法です。
ここから一般的な不妊治療とは異なり、高度生殖補助医療と区分けされます。人工授精では妊娠できない人でも妊娠できる可能性が上がりますが、通院回数が多くなり費用も大きくなります。
初診の来院タイミングはいつ?人工授精のスケジュールは月経開始日から計算
ここからは人工授精を受けるにあたって、通院のタイミングや流れについて説明します。病院によってスケジュールは異なりますので、だいたいの目安として参考にしてください。
月経開始日~5日目
病院を受診し、排卵誘発剤を使用するかどうか、薬の種類などを検討します。完全に自然排卵による人工授精を希望している場合には、次回排卵予定の直前で受診するかたちでかまいません。
月経開始10~12日目
超音波検査で卵胞の大きさや子宮内膜の厚みをチェック。血液検査でホルモンの値を確認することもあります。卵胞の発育状況がよくないと、卵胞刺激ホルモン製剤が処方されることも。治療の内容や使用する薬剤についてなど、気になることがあれば医師に確認しておきましょう。 超音波検査で卵胞の大きさから排卵日を特定し、治療の予定(治療実施時間)を決めます。精液の採取方法や当日の処置についてなど、当日の流れについて詳しい説明があります。
月経開始13日目(排卵日前日)
排卵誘発剤を使用する場合、超音波検査で卵胞の大きさをチェックします。卵胞の成熟が確認出来たら、人工授精を実施する予定時間(36~40時間前)に合わせて排卵誘発剤を投与します。投与時間によっては病院で実施することが難しいので、薬が処方されて家で自己投与することになります。 自然排卵による人工授精の場合は、超音波検査に加えて尿検査によって排卵日を特定することがあります。尿中のLHというホルモンの値が陽性になっていることを確認できれば、検査翌日には排卵されることが推測できるのです。
月経開始14日目(排卵日当日)
当日朝に自宅か病院内で精液を保存容器に採取します。顕微鏡検査などで運動機能など質の良い精子を選定・洗浄し、濃縮させた注入液を作ります。 人工授精は内診台で行われます。処置ではほとんど痛みはありませんが、カテーテルが入りにくいと入り口を広げるために器械を使います。その際には痛みを感じることも。 処置が終わったらそのまま5~15分程度安静にし、看護師から生活状の注意点や今後のスケジュールについて説明があります。
生理14日目以降(人工授精以降)
排卵と黄体機能のチェックを行います。黄体ホルモンが十分に機能していないようであれば、ホルモン補充療法をすることも。
生理28日目以降(生理予定日以降)
生理が予定日を過ぎても来ないときには、妊娠判定のために血液検査をします。受精が確認できなければ、また次の人工授精のタイミングに向けて治療を開始します。
仕事への影響
30代ともなると、仕事での責任も増えてキャリアを積んでいる人も珍しくありません。人工授精だと通院も月に2~6回程度です。通院のために仕事の調整が必要になってくるので、負担に感じることもあるでしょう。しかし基本的に通院や人工授精当日でも仕事を休む必要はなく、午後から出勤することは可能です。 人工受精後、2~3日は少量の出血があるかもしれませんが、よほど量が多くなければ気にすることはありません。もし出血の量が増える、3日以上続くといった場合には病院に相談しましょう。
人工授精当日の流れと、治療の前日に気をつけること
前日の注意
人工授精の場合も排卵のタイミングと治療を行うタイミングが重要です。事前に基礎体温や超音波検査などで卵子の成熟時期をみて、排卵日(治療の予定日)を決めておきます。しかし、卵子の成熟が予想とずれていることも考えられます。必ず受診しましょう。 特に自然排卵による人工授精を予定している場合には、前日に尿中LHの測定で陽性が出ていることが条件です。排卵誘発剤を使用する場合には36~40時間後に排卵が起こるので、治療するタイミングを計算して薬を投与します。
夫は当日の朝に採精をする
人工授精の当日の朝、自宅で精液を採取した場合には3~4時間以内に提出してください。2~3日前から禁欲しておくと、妊娠率があがります。(出典:日本産婦人科学学会/10.人工授精/4.AHIの方法 http://www.jaog.or.jp/lecture/10人工授精/)
精子の洗浄・濃縮
採取した精液から不要なものを洗浄し、活発に運動している成熟した精子のみを選定して注入液をつくります。
子宮内への注入
子宮内に精子の混濁液を注入する際、できるだけ柔らかい素材のカテーテルを使用するようになっていますが、ときには処置中に出血や痛みを伴うことがあります。
処置が終わってから腹痛が起こることがありますが、これは直接子宮に精液を注入するために起こります。精液の中には子宮を収縮させる物質が入っています。事前に精液を洗浄して混濁液を作り、処置後の腹痛が少なくなるようにしているのですが、それでも腹痛が起こることはあります。
安静後、帰宅
処置後は5分程度安静にする必要がありますが、あとは普段通りの生活ができます。軽い運動や入浴もでき、日常生活や仕事への支障はありません。 感染症を予防するために、病院によっては2~3日抗生剤を服用することがあります。
人工授精の治療で感染することは多くないのですが、薬を飲むことで妊娠や赤ちゃんには影響ありません。もし心配なら必ず医師に伝え、納得のいく治療を受けられるようにしましょう。
いつタイミング法から人工授精へステップアップするべき?
卵巣の機能が年齢相応で結婚後1年以内ならタイミング療法を始め、そこから切り替えるのが通常です。30代前半では6ヶ月までに、30代後半では3ヶ月を目安に人工授精に切り替える検討をしましょう。 20代では年齢的な余裕もあるのか、あまり積極的に人工授精を検討する人は少ないようです。また年齢にかかわらず、「人工」という言葉に抵抗を覚え、自然妊娠にこだわって人工授精へのステップアップに踏み切れない人もいます。 残念ながら、タイミング法で何年か費やしてしまうと、逆に年齢を重ねて妊娠率が下がってしまう可能性があります。人工授精は排卵時期を特定し、人工的に受精しやすい状態を作る自然妊娠に近い方法です。2人以上のお子さんを希望しているなら、積極的に次の治療へとステップアップをすることを考えましょう。 年齢別AIH施行回数と累積妊娠率(%) 日本産婦人科学会HPより 人工授精で妊娠するのは、88%が4周期以内というデータがあります。そのため、20~30代の女性であっても、3~4回人工授精をしても着床が確認できない場合には次の治療法を検討するほうが良いでしょう。なかなか妊娠しないことに落ち込む気持ちは分かりますが、妊娠できない方法を何度も試すよりも、自分達の不妊原因に合った方法を早く見つけることが大切です。(出典:日本産婦人科学学会/10.人工授精/2.AHIの妊娠率 http://www.jaog.or.jp/lecture/10人工授精/)
執筆者
小坂 恵 看護師。総合病院(婦人科、外科、脳神経外科、整形外科、放射線科など経験)で6年勤務し、出産を機に退職。その後、美容皮膚科・形成外科クリニックと訪問看護ステーション(ダブルワーク)で看護師として復職し、現在6年目。看護師を続けながら、Webライターとして美容、医療、健康系の記事を主に執筆。美容の認定専門家として記事監修・コメント執筆を行っている。
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