胚移植をする時、どの胚を戻すかはどうやって決めるの?自分で選べるの?
2024/02/21
2024/02/21
採卵を乗り越えて、卵子と精子を媒精して無事に受精し、順調に胚(受精卵)が育ったら、いよいよお腹の中に胚を戻す『胚移植』になります。
生殖補助医療における最もポピュラーな治療の流れでは、受精卵を5~6日間培養して胚盤胞(はいばんほう;Blastocyst)というステージまで発育させて、このステージまで到達したら一度凍結保存を行います。
凍結保存を行った治療周期には胚移植は実施せず、翌周期以降に、お身体を子宮に胚が着床しやすい状態へとしっかりと整えてから、凍結保存しおいた胚を融解して、子宮の中に戻していきます。
胚移植は、日本産科婦人科学会の規約により『生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする』と定められているため、患者様の年齢が高齢な症例や、過去に複数回にわたって胚移植を行っているにも関わらず妊娠に至らない症例などを除いては、基本的には単一(1個ずつ)でしか移植をすることは出来ません。
理由は極めて明白で、双子などの多胎妊娠は、単胎妊娠と比較して非常にリスクが高いことが明らかとなっているためです。例えば、“周産期死亡率”を取ってみても、多胎妊娠では単胎妊娠と比較して死亡率が約12倍も高いことが学術的に報告されており、加えて出生した児にとっても合併症などのリスクが顕著に高くなるため、重要な予後因子となります。このような多胎妊娠を防止して、なるべく安全で衛生的なお産に繋げるための観点から、1個ずつ移植をすることが定められているのです。
この規約は諸外国でも同様であり、ヨーロッパ生殖医学会;ESHREなどでも、生殖補助医療を行う医療機関においては、移植する胚の数を1つに限る単一胚移植(SET:Single Embryo Transfer)を標準とすることが義務化されています。
基本的には1個ずつしか移植できないとなると、一度の採卵で複数の卵子が採れて、尚且つ複数の胚盤胞が発育し、凍結保存をしているという場合に、どの胚から戻した方がいいのだろう?といった疑問が生じると思います。
今回は、胚移植をする時に「どの胚が良いのか?」「どうやって決めるのか?」「自分で選べるのか?」といったことについて、詳しく解説していきたいと思います。
胚盤胞の選別に重要となる『評価;グレード』
まず「どの胚が良いのか?」ということですが、胚盤胞には発育した段階で学術的な評価に基づいた『グレード』が付けられていきます。
多くの施設では、Gardner(ガードナー)分類と呼ばれる共通の評価方法によってグレードが付けられていますが、クリニック・病院によってはその施設独自の評価方法を導入している場合もあります。
Gardner分類は、
(1)胚の形態や大きさを表す1~6までの数字
(2)内部細胞塊(ICM;着床後に胎児の本体に成長する部分)のA~Cまでの評価
(3)栄養膜細胞(TE;着床後に胎盤に成長する部分)のA~Cまでの評価
によって表記されます。
AA、AB/BA、BB、AC/CA、BC/CB、CCと大きく6段階あり、AAが最も良好な状態、CCが最も不良な状態を表します。
例えば、胚盤胞グレード[4AB]であれば、
4:大きく拡張している胚盤胞、
A:ICMの細胞数が多く、大きな塊を成している、
B:TEの細胞数がやや少ないあるいは細胞の層がやや薄い。
といった具合です。
このようなGardner分類の評価に、胚盤胞の成長スピードやサイズを加えて、より細かいグレードを付けていきます。これには、同じグレードの胚盤胞の中でも、さらに細かく優劣を付けるといった狙いがあります。
例えば、4ABという同じグレードの胚盤胞が2個あった時に、より成長スピードの早い胚の方を高い評価としたり、よりサイズが大きい胚の方を高い評価としたりします。
グレードの良い胚はなにが良い?
次に、移植する胚を「どうやって決めるのか?」についてですが、不妊治療に限らず“質の高い医療サービス”とは、費用的にも身体的にも、いかに患者様に負担をかけずに最良の結果に結び付けるかが極めて重要とされています。
生殖補助医療においては、当然ながら1回の胚移植で妊娠に繋げることこそが最良であり、グレードが優れている胚盤胞ほど胚移植による着床率が高いことが数多くの学術研究より報告されているため、胚移植を行う際の胚盤胞の優先順位としては、基本的にはグレードの上位(一番手または二番手)の胚から戻していくというのが一般的です。
シンプルに言えば、妊娠に辿り着くための胚移植回数が少なければ少ないほど、患者様の費用面・身体面の負担が少なくなることは言うまでもありませんので、妊娠率が高いであろうグレードの良い胚から優先的に戻せば、それだけゴールまでの道のりも短くなり負担も少なく済むという考え方です。
まれに、「グレードの悪い胚から移植をしていきたい‥‥」という患者様がいらっしゃるのですが(性格でしょうか?)、先述した通り、グレードの悪い方を戻すということは医学的な見解からも“非効率的な治療”となってしまう可能性が高いです。
医師を信頼して任せるのが得策かも?
では、移植する胚は「自分で選べるのか?」ということですが、不妊治療の施設には、医師(または、胚の発育状況を良く知る胚培養士)が移植する胚を決める施設と、自分で選択して決めることが出来る施設と、両方あります。
基本的には医師が決めるという施設でも、患者様が強く要望すれば変更することも可能としているところが多いと思います。
ただし、胚盤胞のグレードや成長スピード、サイズなどを羅列されても、普段から生殖医療に従事していない一般の方たちが、どの胚から戻したら良いのか?を把握するということはおそらく極めて難しいと思います。
また近年では、AI解析機能が搭載されたタイムラプスインキュベーターが登場したことにより、従来のGardner分類のグレードに加えて、AIが解析・算定したスコアリングも付けられるようになりました。
AI解析は、Gardner分類のような単純な形態的評価ではなく、受精卵の発育過程における細胞分裂の速度や細胞の大きさの対称性、細胞分裂誘起から次の細胞分裂が誘起されるまでの時間、フラグメンテーションの量、発育動態、拡張の大きさ、などなど非常に複雑です。
患者様がこれらを完璧に理解して自分で胚を選別されるというのは、ほとんど不可能に近いことは明らかで、そこに労力を割くのはあまりスマートとは言えません。
というよりも、AI解析については未だ研究段階の項目も数多くあり、実際に従事している医師や胚培養士ですら、日々新たな発見をしているという状況です。
「どの胚を戻したらいいかわからない‥‥」という場合には、やはりご通院先の医師を信頼して任せてみるのが最良な選択になるでしょう。
ルールに沿った治療を受けるようにしましょう
今回は、胚移植をする時に「どの胚が良いのか?」「どうやって決めるのか?」「自分で選べるのか?」といったことについて、解説をしてきました。
複数の胚盤胞を凍結保存していて、もしも1回の胚移植で無事に妊娠に至ることが出来れば、残りの胚盤胞は実質半永久的に凍結保存しておくことが可能です。
数年後であっても2人目、3人目を検討される場合には、凍結保存しておいた胚を融解して胚移植をするということも出来ますので、グレードの良い胚を優先的に移植してなるべく少ない移植回数で妊娠し、将来の弟・妹ために凍結保存している胚を残しておくというライフプランニングを描くのもよいかと思います。
最後に、少し話しは逸れますが、「双子が欲しいから胚を2個一緒に移植したい!」という患者様がよくいらっしゃいます。
これは最初に解説した通り、母体に対しても胎児に対しても極めてリスクが高くなってしまう多胎妊娠を防止するという観点から、難治症例などを除いて原則1個ずつ移植することが日本産科婦人科学会により定められています。
安全に、そして衛生的に赤ちゃんを迎えるためにも、不妊治療を受けられることを決めたら、必ずルールに従って治療を受けられるようにしましょう。
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