人工授精のコツと妊娠率
2024/01/08
2024/02/13
「人工授精」と聞いて、どんなイメージを持たれるでしょうか?
もしかしたら、「人工的に(人の手で)受精させる方法」だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
実は、この業界に入る前までは私もその中のひとりでした。
「さあ、これから妊活を始めよう!」と考えられている方には、是非とも人工授精の知識は知っておきたい事柄の一つでもありますので、しっかりと理解しておきましょう。
人工授精ってなんだろう?
排卵誘発を行い(誘発剤を使わずに自然行う場合もあります)、排卵の時期に合わせて、配偶者(ご主人)から採取した精子を調整し子宮の中に注入するという自然に近い不妊治療法です。
不妊治療全体でみると、比較的序盤の治療法となります。
人工授精では、「調整した精子」を用いるというのがとても重要なことになってきます。
精子の調整とは、精子とは比重の違う調整液(培養液)などを使って遠心分離を行います。
死滅精子・良くない精子は比重が軽いため上に残り、生存精子・良好な精子は比重が重いため下へ移行するという精子の性質を生かし、上澄みを除去することで以下の効果が得られます。
・精液中の不純物(菌など)を取り除く
・濃縮させることで良好な運動精子を集める
・精子が受精しやすい状態になる
最近では、遠心分離によって精子のDNAに物理的ダメージの増加が懸念されるということで、遠心分離を用いない他の方法も出てきています。
どんな人が適応?
軽度の乏精子症、精子無力症
乏精子症(精子が少ない)、精子無力症(運動率が低い)が軽度であれば、前述に説明した精子の調整によって遠心分離を行い、良好な精子を濃縮させるためにタイミング法を行うよりも効果が期待できます。
性交障害
勃起障害(ED)や射精障害、性交痛、精神的な理由で性交が出来ないカップル(セックスレスも含む)
子宮頸管粘液不適合
ヒューナーテストで頸管粘液内に運動精子が少なく、精液所見が正常な場合。
ステップアップの目的として
不妊治療は大きく分けると、タイミング法、排卵誘発法、人工授精法、体外受精、顕微授精とがあります。通常は、これらを段階的に治療していくことになります。
タイミング法や排卵誘発法でうまくいかない場合は、人工授精を行っていきます。
人工授精のメリットとデメリット
人工授精のメリットとデメリットにはどんな事があるのでしょうか。
きちんと理解した上で治療を受けるようにしてくださいね。
メリット
治療費用が安い(保険適用可、回数や条件の制限なし)
2022年4月の不妊治療が保険適用化となったため、人工授精の施術費用は保険診療の場合どこで受けても一律5,460円(保険適用後)となりました。
ただし、施設基準を満たしていないと保険診療では行えませんので、事前にご確認ください。
ほとんど痛みがない
施術では約2mm程度のカテーテルを子宮内に注入しますので、痛みはほとんどないようです。しかし、痛みに対しては個人差があるようで、なかには痛みを感じられる方も稀にいらっしゃいます。
施術自体は、比較的容易な治療法
精液の調整処理には1~2時間を要しますが、施術(子宮内に注入する)時間はほんの数分で終わります。
体外受精を行っていない幅広い産婦人科医院やクリニックでも行える
地域によっては、体外受精が出来る不妊治療施設が少ないところもありますが、人工授精を行えるところは比較的多いようです。
デメリット
腹膜炎などの感染症
精液の調整で不純物(菌など)を取り除いていますが、完全にゼロにすることは困難です。
その菌が子宮や卵管内に入り込むと原因で、極めて稀に起こるということがあります。
処方される抗生物質は必ず服用するようにしてください。
出血
施術では、カテーテルを子宮内に注入するため出血することがあります。
軽度の出血であれば問題ありませんが、出血が続くようでれば担当医に相談してみてくだい。
多胎妊娠
排卵誘発法を行った場合では、排卵する卵子の数をコントロールすることや自然の力で受精し操作することが出来ないために、多胎妊娠になる可能性は高くなる傾向にありますが、刺激の弱い薬を使うことで自然妊娠の確率に近づけることができます。
妊娠率はどうなの?
一般的に妊娠率は、5~10%程度と言われています。
この妊娠率だけをみると「成功率が低い」と思われるかもしれません。
タイミング法での妊娠率は数%と言われていますので、次のステップとして少しはいいようにも感じ取れます。
また、一般的な妊娠率は1回あたりであり回数を重ねるごとに累積妊娠率は上がっていきます。そして、年齢、治療歴や施設ごとなど条件によって違いがあることに注意してください。
人工授精のコツ
人工授精をする上ではどの様なことに気を付けると良いのでしょうか?
出来るだけ早く検査または治療を始める
妊活を始めようとされている方や治療を悩まれている方は、早め受診をおすすめします。
まずは、自分たちの妊活力を把握することが大事です。
過ぎた時間戻りません、若返ることはできませんので、とりあえず検査だけでも受けてみませんか?
良好な精液
精液所見が良いに越したことはありませんので、男性不妊があり治療で治せるのであれば早期に開始してください。
回数の見極め
回数が増えれば累積での妊娠率は増えていくとこはお話しましたが、5~6回目くらいからは頭打ちとなると言われています。
人工授精を何度もしていてステップアップに切り替える時期が遅れたために、年齢が上がり体外受精でも妊娠しづらくなるということも十分ありえますので、これくらいを目安に体外受精の治療をする期間も考慮したうえで、次のステップアップを考えるべきなのかもしれません。
治療施設選び
前述にも書きましたが、体外受精を行っていない幅広い施設で行われており、調整した精子を用います。
人の手で調整しているために、どうしてもやる人によって技術の良し悪しが出てくる場合もあります。事前に治療実績などを確認すると良いでしょう。
さいごに
体外受精から開始した方がいいのではないかと思われるかもしれませんが、人工授精と体外受精では、治療費や治療の労力など段違いに変わってきます。
不妊治療のステップアップは大変重要であり、また切り替えの見極めも非常に大事です。
担当医やパートナーともよく話し合い、適切な治療法を選ぶようにしてください。
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