不妊治療、夫婦の会話がうまくいく?アサーティブ・コミュニケーション
2019/10/30
2019/11/11
不妊治療中は、夫婦のコミュニケーションがうまくいかない、喧嘩してしまう、といった悩みを抱える方も少なくないと言われています。そんな時に使えるコミュニケーション方法の1つとして「アサーティブ・コミュニケーション」があります(以下アサーティブ)。今回は、妊活コミュニケーション協会の代表、鈴木早苗さんにアサーティブについてお伺いしています。
不妊治療でパートナーと話し合うことの難しさを実感。
ー 妊活コミュニケーション協会は、どのような経緯で立ち上げたのですか?
鈴木さん:妊活をしていているとなかなか結果が伴わなくて自信を失うことが多いですよね。私自身も不妊治療で苦労して、同時に他の人の苦労も感じたので、これはのっぴきならない社会の問題だなと思いました。
結婚して子供が欲しいということは、一生、2人で家庭を作っていこうと決めたわけです。それなのに、ボタンの掛け違いで2人がすれ違ってしまったら本当にもったいない。
だから、妊活中のコミュニケーションを円滑にすることで、「ああ、この人と結婚してよかった。これから何があっても、こうやって話し合っていけば大丈夫だ」と思ってもらえるような土台をこの時期に作って欲しいと思っています。
不妊治療中の夫婦の会話。なぜうまくいかない?
ー ご自身が不妊治療をする中で、具体的にどのような点に苦労されたのでしょうか。
鈴木さん:不妊治療の話は、話題として取り上げるのが非常に難しいテーマです。その中でも特にハードルが高いのが「夫と話し合う」ということ我が家でも話し合いの着地点が見出せなくて、お互いを責め合うということをよくやっていました。
私の思いと夫の思いが微妙にずれて、合意点をなかなか見つけられませんでした。そして私自身、不妊治療特有の精神的・身体的・金銭的な苦しみにどっぷりハマっていたので、夫に意見されればされるほど孤独感を感じました。
治療当事者は不妊治療でなかなか結果が出ないと、精神状態がとても不安定になります。その中で、いろいろなことを決めていかなければならないし、パートナーとは建設的に話し合わなければいけない。これがとてつもなく難しいということを、身を持って経験しました。
不妊治療は別の側面から見ると、女性としてのアイデンティティ崩壊の危機ともいえます。
私たち女性は不妊治療をしていく中で、「自分が何を感じ、何を選択していくのか」という自己との対話と、「目の前の相手とどう向き合うのか」という他者と対話を同時にしなければいけないのです。
治療のことも考え、自分のメンタルケアもして、目の前のパートナーとも話し合う・・・。本当に大変だなと思いました。
不妊治療中は夫婦に深い溝ができやすい
ー なぜこんなにも不妊治療中は2人の間に温度差が生まれるのでしょうか。
鈴木さん:そもそも教育の問題もあって、夫側も妻側も最初は生殖に関する正しい知識というのをあまり持っていません。
不妊治療は女性の体を使っておこなわれていくので、治療を進めていく中で、女性は自然といろいろな知識が身についていきます。また、治療の過酷さや理不尽さも経験していきます。
たとえば「自己注射に10万かければ3個採卵できて、そのうち1つが胚盤胞になりますよ。だから安心して10万使ってください」という世界ではないことを、女性は身をもって理解します。
そして、「またリセットしてしまった」「せっかく採卵に臨んだのに空砲だった」「移植したのに着床しなかった」など、コントロールできない事態を何度も経験します。
しかし、男性側はそこまでリアルに身体感覚をともなって理解する機会がありません。
ですから、妻がなぜそこまで落ち込むのか理解できずに「気にしすぎ」と言ってしまったり、1回のチャンスがどれだけ貴重なのかがわからずに飲み会を優先してしまったり・・・。
そうすると妻の心の中に冷たい風が吹いて、少しずつ溝が広がっていきます。
まさか男性は、妻にアイデンティティ崩壊の危機が迫っているとは思ってもいないので、何が正解かわからず、地雷を踏んでしまう。
そして2人の溝は広がっていく。そんなことのくり返しが、多くの夫婦の中で起きていると思います。
女性としてこうあるべき、という考えに苦しむ
私は治療が長引くにつれ、どこかでけじめつけなければ、と考えるようになりました。
そして「ステレオタイプの影響」というのを考察するようになりました。(ステレオタイプとは「判で押したように多くの人に浸透している先入観、思い込み、固定観念」のこと)
私はなぜこんなにも子どもを欲しいのか、それは本当に私の中から純粋に沸き起こってきた思いなのか、それとも社会が求めている姿に合わせようとしているだけなのか、こんなことを折に触れて考え始めたのです。
そして、私の中に
- 女性は子どもを産むもの
- 子どもを産んで一人前の女性
- 子育てをするのが女の幸せ
という固定観念が根強く存在していることを発見しました。
これらはフラットな目で見れば多様な価値観のひとつですが、ステレオタイプとして長い年月をかけて刷り込まれてきた場合、この女性像とのギャップに私たち女性は苦しむということに気づいたのです。
つまり、私たちは単に子どもができなくて苦しいというだけでなく、社会から求められている女性像に到達できないという苦しさも抱えている、ということです。
実際に私も、ありのままの自分を肯定する前に「女としてどうなのか」と自分をジャッジし、否定することを繰り返していました。それは本当に苦しかったです。
この現状を打破し、もう一度顔を上げて生きていこうと思えたのは、アサーティブのおかげです。おそらくアサーティブを知らなかったら、失意の内に治療を終え、いまでも傷⼝から⾎を流して⽣きていたと思います。
アサーティブ・コミュニケーションで相手も大切にできる
ー アサーティブ・コミュニケーション(以下アサーティブ)とはなんですか
鈴木さん:アサーティブとは、自分も相手も大切にしたコミュニケーションのことです。
自分の気持ちやニーズをきちんと把握し、それを相手のことを大事にしながら、誠実に率直に伝えていきます。
アサーティブは1950年代のアメリカで行動療法という心理学の一つの体系として生まれました。その後、1960年代以降の公民権運動や女性解放運動の中で発展してきたという歴史があります。
こうした背景から、アサーティブでは「人としての尊厳」をとても大事にしています。ここが他のハウツーと大きく異なる点です。
だからこそ私は、アイデンティティが危機を迎える不妊治療中の人にこそ、知って欲しいと思っています。
アサーティブであれば、自分を大事にすることもできるし、そして目の前のパートナーのことも大事にしながら、2人の未来のために建設的に話し合うこともできます。
「そんなの難しい」と思う人もいると思います。しかし、今できないのは単純に「知らない」からできないだけなのです。
アサーティブのいいところは「学んで練習すれば誰にでもできるようになる」という点です。その機会と情報を提供していくのが、私のミッションのひとつでもあります。
アサーティブで自分の気持ちを素直に。相手への対応にも役立つ
ー 治療中の方の中には、自分を欠陥品だと思ってしまうケースもあると思いますが、そういった気持ちになったときに、アサーティブをどのように使ってパートナーと向き合えばよいのでしょうか。
鈴木さん:ひとつは、「誠実」という観点から、パートナーにサポートしてもらう手前の、自分の中の処理というか、自分との対話に非常に役に立つと思っています。
自分が今なにを感じているのか、自分をどう捉えているのかとか、といった自分と対話する部分です。
「私は、今この状況を苦しいと思っているんだな」とか「私は、自分のことを欠陥品だと感じているんだな」とか、ワンクッション置いて「自分の気持を受け止める」ということです。
自分の気持に「誠実」に向き合って、ネガティブな感情をなかったことにせず「そうだよね、私、つらいよね」と受け止める。それでつらさや悲しみが消えるわけではありませんが、心を落ち着かせる助けになります。
次に「対等」という視点を持つことで「一人の人間として考えたら、確かに子供はいないけど、人としての価値はみんな同じだよな」と考えることができますし、「いろんな人がいるし、そんなに自分が駄目だと思わなくていいんじゃないかな」と必要以上に自分を卑下しなくて済みます。
こうしたアサーティブの考え方が、自尊心が落ちそうになったときに「いやいや、待て待て」と、心の体勢を立て直し、メンタルを保つことにとても有効です。
また、アサーティブは具体的な対話のスキルを持っていますので、パートナーに対して「連続して タイミング取ってほしい」「朝早く起きて採精してほしい」など、相手にお願いしなければならな いシチュエーションで大変役に立ちます。
ー 素直になるといことですね?
鈴木さん:そうそう。なかなか素直になれないんですけどね。「こんなに大変な思いをして治療しているのに、なぜあなたは寝ているの?」と思ったり、「毎回、こっちは股を広げて痛い思いをしているのに、なんでお疲れ様の一言が言えないの?」と思ってしまったりね(笑)。
そうするとついついイヤミな言い方になっちゃうじゃないですか。
でもそこで、アサーティブな考え方を知っていると、行動の選択肢が増えます。イヤミを言うことも出来るし、相手への理解をしめしながら素直に「クリニックの日はひとことお疲れ様って言って くれると嬉しいな」とポンと伝えることもできる。
このように伝え方の選択肢を持っていることが大事です。
仲直りはアサーティブを使いながら自分の言葉を伝えていく
ー 喧嘩をされたときにどうやって仲直りされたんですか
鈴木さん:それは「絶対に夫のことを責めないで話そう!」と腹をくくるんです。
私も思うところはあるけど、相手にも言い分があるんだろな、と戦闘モードから話し合いモードにがんばって切り替えます(笑)。
夫の言い分の背景に、まだ言語化されていない気持ちが隠れているのではないかと思って、自分なりに相手の立場に立って仮説を立てます。
そうすると「もしかしたら、私が治療を続けることで傷つく姿を見たくないのかな」とか、「私の苦しむ姿を見て、夫自身も傷ついているのかな」といった、思ってもみなかったことが浮かび上が ってきたりします。
そして「よかったら話し合わない?」と穏やかに声をかけます。話し合いの最中は「絶対に相手を責めない」と覚悟を決めて話します。
たとえば「治療をいつまでするか」というテーマだったら、「私としてはやっぱり、子どもを諦めるというのは、今はちょっと難しい」ということを正直に話してみて、相手の意見にも耳を傾けて いくのです。
「もしかして、あなたが『いつまで続けるの?』と私に聞く背景には、もうこれ以上、私の傷つく姿を見たくないというのがあるのかな。だから心配して言ってくれているのかなと思ったんだけど 、どう?」と聞いてみる。そうすると「それもある」となるんですね。
そうやって会話のキャッチボールを重ねます。ドッチボールにはならないように気を付けます(笑)。
クッション言葉を使いながら、「あなたが言っていることはわかるけど、私は何度も病院に行って、毎回駄目だと本当に落ち込んでしまう。そういうときって上手に話せないんだよね」と、責めな いで伝えるわけです。責めてない感じするでしょ?(笑)。
主語を「私」にしてIメッセージで伝えると、不思議とお互い素直になっていきます。
まず自分から正直になって、ある程度お互いの心境を話したあと、具体的な話をするという感じです。
「私も治療を永遠にやろうと思っていないから、何がベストか一緒に考えて欲しい」と伝え、夫の意見を聞きながら、具体的に治療にあといくらかけるか、いつまでするかといった期限を話し合ってきました。
もちろんいつも話し合いがうまくいったわけではありません。途中から激しい喧嘩になることもありました。でも、それでOKだと思います。ぶつかっても、また素直になって謝って、一緒に歩んで いく。その積み重ねが2人の財産になっていくのではないでしょうか。
今ではすっかり私も夫も話し合いが上手になりました(笑)。百戦錬磨というんですかね(笑)。
ケンカすることもあるし、二人してプイッとそっぽを向くときもあるけど、だいたい30分後くらいにはどちらかが「言い過ぎた、ごめん」、「八つ当たりしちゃった、ごめん」と謝っています(笑 )。
アサーティブは妊活中の夫婦にぜひ学んで欲しい
ー 今後の活動について教えてください
鈴木さん:アサーティブは、妊活中のご夫婦にぜひ一緒に学んで欲しいと思っています。
そのために、2019年の5月に「夫婦の妊コミBOOK」という電子書籍を作りました。Twitterのフォロワーさんにアンケートを取り、リアルな妊活中の夫婦の声を掲載したのと、私の専門分野であるアサーティブのエッセンスを妊活用に凝縮し、一冊の本にまとめました。
期間限定で無料配布したところ、2257名の方がダウンロードしてくれて、しかも50名を超える方から熱い感想メッセージをいただきました。
現在は書籍化に向けて出版社に企画書を持ち込んでいるところです。 どうなるかわからないけど、仮にものすごく大変だとしても、きっと不妊治療ほどではないと思うので頑張ります(笑)。
直近の活動としては、2019年12月1日(日)に静岡市で講座をやります。妊コミBOOKをきっかけに声をかけていただき、開催することになりました。
講座では、不妊治療中のストレスを軽減し、夫や医師とのコミュニケーションを円滑にするための考え方とスキルをお伝えします。参加費は500円です!
お近くの方はぜひいらしてください。
詳細はこちら>https://funin-communication.com/191201sizuoka-kouza/
◯Twitterアカウント
https://twitter.com/sanakichi8
◯公式サイト
https://nincomi.jp/
◯公式ブログ
https://funin-communication.com/
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