胚のグレードはどう決まる?胚の分割が止まる原因とは
2024/01/05
2024/01/05
体外受精では体の外に配偶子(卵子・精子)を取り出し、体の外で受精させて、胚(受精卵)を2-7日間育ててから、体の中(子宮の中)に胚(受精卵)を戻します。その際に重要になるのは、胚が体の外で正常に育つのかどうか? そして、育った胚がどのくらいの確率で子供になるのかを評価する、胚のグレーディング(評価)方法です。
特に「胚のグレーディング」は、移植胚が体の中で正常に子供になるかどうかを判断する目安になります。
体外受精の移植胚に用いられる胚のステージ(段階)は?
移植胚のステージは、主に受精して 2-3 日目の「分割胚」と、5-7 日目の「胚盤胞」の状態が一般的です。
「胚盤胞」まで培養を継続する場合は、約半数が体の外で分割が止まってしまうため、体の外で培養したとしても、「胚盤胞」まで育たないこともあります。
胚の分割が止まる(胚盤胞まで育たない)主な原因とは?
配偶子(卵子・精子)の品質
まず、加齢とともに卵子の染色体異常の頻度は上昇します。これがよく言われている「卵子の老化」の主な要因の一つです。これはある種、自然淘汰的な側面もありますが、卵子に「染色体の異常」があれば正常に分割は進まず、途中で分割が停止する場合があります。
次に、「精子DNAの断片化」によるものです。「精子DNAの断片化」の主な原因の一つとして、活性酸素による「酸化ストレス」によるものが挙げられます。
「酸化ストレス」は飲酒・喫煙などの生活習慣によるものや、加齢によっても生じますが、精子を体外に取り出し、取り扱う過程で生じることもわかっています。さらに重度な男性不妊症においても「精子 DNA の断片化」に頻度が高いことも知られています。精子 DNA に重度の断片化がある場合、3 日目以降の胚発生に影響することがわかっており、その結果分割が停止する場合があります。
最後に、卵子・精子の「遺伝子の異常」によるものです。これらの遺伝子は通常の胚では正常に発現(機能)することにより、正常に胚発育し、子供になりますが、正常に発現しない場合は分割が途中で停止してしまう場合があります。最近では分割が停止する遺伝子のバリアント(種類)が同定されつつあるので、それらの遺伝子等を保有していた場合、若年齢であったとしても、分割が正常に進まず、分割が停止してしまうことが明らかとなってきています。
体の外の培養環境によるもの
まず、配偶子は体の外に取り出した時点から、様々な外的要因(高酸素・温度・pH・光など)の影響を受けるため、品質は低下します。さらに受精させ、受精卵になってからも最大で 7 日間体外で培養します。その間にも品質は低下していきます。体の外の培養環境は体の内の環境を模倣(再現)していますが、完全には模倣できていません。
よって、胚にとって適切な環境でない場合は、分割が停止したり、胚盤胞までの発育に遅延が生じたりする可能性があります。
次に、胚を培養する「培養液」による影響です。胚を培養する「培養液」は様々な種類のメーカーから発売されていますが、胚にとって最適な「培養液」というのは現時点ではっきりとわかっていません。販売されている「培養液」の主な構成組成はどのメーカーもほぼ同じですが、成長因子や抗酸化剤、ヒアルロン酸などを添加している培養液も販売されています。アミノ酸の種類や量にも違いがあります。これらの中で胚の発育に有効であることが報告されているものもありますが、十分なエビデンス(証拠)はありません。
さらに、「培養液」は販売メーカーの生産ロット(品番)によっては、品質が低下している生産ロットもあるので注意が必要です。さらに、「培養液」の使用方法に関しても培養室で適切な管理や使用ができていない場合は、かえって胚に悪影響を与えてしまい、分割が停止してしまう場合があります。
胚のグレーディング(評価)方法とは?
体外受精で複数の胚が得られた場合、それらの中から品質の高い(子供になる可能性が高い)胚を選択する必要があります。移植胚の個数は、多胎(双子)になるリスクがあるため、基本的には 1 個が推奨されています。品質の高い胚を選択することで、成功率を上げることができます。
まず、体外受精の現場で主に用いられている胚のグレーディング方法は
・非侵襲的なグレーディング方法(胚へのダメージがない)
・侵襲的なグレーディング方法(胚へのダメージが少なからずある)があります。
「非侵襲的」なグレーディング方法は ?
「胚の形態学(見た目)に基づく評価方法」
胚のグレーディングにおいて最も臨床現場で用いられているのが、胚の形態学(見た目)に基づいたグレーディング方法です。「初期胚」であれば、Veeck 分類(ビーク分
類)、「胚盤胞」であれば、Gardner 分類(ガードナー分類)が用いられます。
「初期胚」の評価に用いられる「Veeck 分類」
この方法は、細胞の均一性と、フラグメントと呼ばれる余分な細胞片の割合を基準にして、胚の評価をします。細胞が均一でフラグメントの量が少ない程、グレードが高くなります。
「胚盤胞」の評価に用いられる「Gardner 分類」
胚盤胞になると細胞は役割を持つようになり、2 種類の細胞群(将来子供になる内細胞塊と、将来胎盤になる栄養外細胞)に分かれます。これら 2 種類の細胞群をそれぞれ評価し、細胞の数や密度、大きさを 3 段階に分類し、評価します。「内細胞塊」が大きく、「栄養外細胞」が密で数が多いほどグレードが高くなります。
胚盤胞のグレードの見た目の良し悪しは、妊娠率や着床率に直接、相関(関係)があることがわかっています。
「胚の発生動体(分割速度やパターン)に基づく評価方法」
近年、タイムラプスインキュベータ(カメラ付きの培養器)が普及しています。「タイムラプスインキュベータ」は 5 分から 15 分置きに連続的に胚の様子をインキュベータに内蔵されたカメラで撮影するため、インキュベータから取り出すことなく、観察が可能な機器です。
先ほどの胚の形態学(見た目)の評価では、観察した 1 点に対し評価をするのに比べ、「タイムラプスインキュベータ」では、連続で胚の様子を撮影するため、胚に対しより多くの情報が得られ、先ほどの形態学に基づく評価方法よりも、グレーディングの精度が高くなる可能性があります。
「タイムラプスインキュベータ」では、分割した時間や分割パターンなどを詳細に観察可能なため、これらを「Veeck 分類」や「Gardner 分類」に組み合わせることで、妊娠・着床しやすい胚をより正確に選択することが可能となります。
「侵襲的」なグレーディング方法は?
「胚の染色体数に基づく評価方法(着床前胚異数性検査)」
「着床前胚異数性検査」は体外受精によって得られた胚の染色体の数を移植する前に調べる検査です。
卵子は加齢により染色体数の数的異常の頻度が増加し、流産率が増加します。方法は胚盤胞の栄養外細胞の一部を機械的に 5-10 細胞採取し、それらを用いて特殊な検査をします。「着床前胚異数性検査」は胚の染色体の数を調べて、正常な染色体数の胚を選択し、胚移植するため、着床率の上昇、流産率の低下が期待できます。
まとめ
「非侵襲的」なグレーディング方法は簡単に用いやすい反面、やや精度が低いことが問題点です。一方で「侵襲的」な胚のグレーディング方法は精度が高い反面、胚へのダメージがあることや、簡単に検査ができないことなどが問題点です。
近年では、AI を導入することで、グレーディングの精度を向上させたり、着床前胚異数性検査の材料を「栄養外細胞の一部」ではなく、「培養液」に変更したりする研究などが進んでいます。臨床応用については少しずつ進んではきていますが、まだまだ広く臨床で使用できる精度までは至っていません。
胚のグレーディング方法については日々様々な取り組みが行われています。
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