不妊治療の保険適用について解説
2024/01/23
2024/02/13
厚生労働省は昨年の不妊治療保険費用が895億円だったと明らかにし、約37万人が不妊治療を受けて、そのうち26万人が体外受精による生殖医療を受けていたことがわかりました。
不妊治療は身体的、精神的、経済的な苦痛を伴うと言われていますが、保険適用により経済的負担は軽減されたカップルも多いことでしょう。また、費用面だけではなく、保険適用になったことで、職場に不妊治療について話やすくなった、保険適用をきっかけに不妊治療を始めたとの声も多く聞こえ、多方面にメリットが出ている印象です。
しかし、保険適用にはさまざまな制限もありすべてのカップルにとってメリットが生まれたかというとそうではありません。この機会に保険適用の不妊治療について、振り返ってみたいと思います。
不妊治療開始について
日本産科婦人科学会によると生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間避妊することなく性交渉をおこなっているのにもかかわらず、妊娠の成立を見ない場合を不妊といい、ある期間については1年間とされています。ただし、女性の年齢が35歳以上の場合はこの期間は半年間と短くなり、年齢が高くなるにつれより早く不妊に関する検査や治療を開始したほうがよいという考えが一般化しています。
以上のことから妊娠・出産については年齢がとても影響することがわかります。
不妊に関する検査について
多くの生殖医療専門医が必要と考えている検査でも一部保険適用にならなかった項目もあります。
その他、内膜細菌叢検査や、子宮内膜受容能検査については先進医療に認可され、保険適用で行う不妊治療と併用して実施できる検査となっています。先進医療については、どなたでも適用になるわけではありません。治療経過により適用されますのでご注意ください。また、先進医療で特定の検査や治療を行うには、先進医療の認可がおりている施設で治療や検査を受ける必要がありますので参考にしてみてください。
不妊治療の選択について
それぞれのカップルにおいて
①年齢
②妊娠を希望されてからの期間
③妊娠歴の有無
④不妊原因
はさまざまです。
タイミング療法、人工授精、体外受精、この3つの治療うち、①~④を踏まえて考察し、適した治療を提案することで、最短期間で妊娠できることを目指します。
一般治療(タイミング療法・人工授精)
排卵誘発剤を使用し、超音波検査で排卵の時期を予測し性交渉の日程や人工授精を実施する日程を決定します。タイミング療法については以前から、人工授精ははじめて保険適用となったので、費用がかなり軽減されたことは大きなメリットです。年齢や回数制限はなく一般治療での保険適用によるデメリットは今のところ見当たりません。
体外受精
体外受精も保険適用となっていますが、体外受精については女性年齢による適用制限があります(男性の年齢制限はありません)。
30代で体外受精を開始したら胚移植の回数が6回、40歳以降、43歳未満で開始したら3回までが保険適用となります。
メリットはやはり保険適用での費用の軽減です。費用面で体外受精へのステップアップを躊躇していたカップルにとって大きな福音をもたらしたと考えます。経過により先進医療に定められた医療技術を併用して治療を行う事もできます。
デメリットは、使用薬剤に制限があること、保険適用でない補助治療や薬を使用しての体外受精を希望する場合はすべての過程において自由診療となり、費用面での負担が増加します。保険適用前の助成金制度は廃止されました。また、胚移植の回数制限がありますので回数を終了した時点で保険適用の体外受精ができなくなります。
この回数制限が議論された経緯について、厚生労働省は「特定不妊治療を受けた方の累積分娩割合は、6回までは回数を重ねるごとに明らかに増加する傾向にあるが、6回を超えるとその増加傾向は緩慢となり、分娩に至った方のうち約90%は、6回までの治療で妊娠・出産に至っているという研究報告がなされている。
また、累積分娩割合を年齢5歳階級ごとに比較した場合、30~34 歳及び35~39歳においては、治療回数を重ねるにつれて累積分娩割合は増加しているが、40歳以上では、治療回数を重ねても累積分娩割合はほとんど増加しない。ということを元に30代女性の保険適用胚移植回数を6回と定めました。
言い換えれば、6回までに妊娠できる可能性が多くあるということです。回数制限があることでカウントダウンが始まったように感じられるかもしれませんが、6回までに結果が出る可能性があることを前向きに捉えて妊活していただきたいと思います。
40代女性においては3回となっています。妊娠・出産には女性の年齢が影響しますので、できるだけ早めに治療していくことをお勧めします。
また、体外受精で妊娠・出産後、お二人目のお子さまを望まれて体外受精を行う場合は回数のカウントがリセットされ、治療開始年齢での胚移植実施回数となります。
現在、保険適用から月日が経過し、保険回数が終了したカップルも多数いらっしゃいます。その後の治療を自由診療で継続するのか、不妊治療を終了するのか、カップルにとって重大な決断をすることになります。
費用について
・タイミング療法1周期あたり5,000~6,000円ほど。
・人工授精1周期あたり9,000~15,000円ほど。
・体外受精1周期あたり18万円ほど~。
保険適用でも体外受精についての費用は高額になりますが、高額医療制度などを利用することで費用を抑えることができ、また、生命保険においても給付が受けられるプランもありますので、うまく活用して経済的負担を軽減しながら妊活できるといいですね。
保険適用となるとどうしても経済面がクローズアップされがちなのですが、不妊治療において大切なことは、二人に適した治療を受けて最短期間で妊娠できること。
費用が手軽だからといってタイミング療法や人工授精を長期間実施することはおすすめしません。
治療のステップアップについて
今までの不妊治療歴を確認すると「タイミング療法20回」というような話を聞くことがあります。毎月タイミングを実施したとして1年8か月が経過しています。
その期間、年齢が上昇し卵巣機能も変化します。治療のステップアップは1つの治療について6回前後を目安に考えてください。累積妊娠率ではタイミング療法、人工授精においては6回前後までに妊娠される方が多く、それ以降回数を重ねても妊娠率は横ばいになります。そこで、同じ治療では妊娠は難しいかもしれないと判断し治療をステップアップしていきます。必要な時期に適した治療を選択するように二人で考えてみてください。
最後に
不妊治療の保険適用によって、医療者からも不妊治療を受けるカップルからもさまざまな要望が出ていることでしょう。現在保険適用となっていない検査や薬の保険適用化を望む医療者の声や、各施設での患者調査の結果でも治療回数や年齢制限の撤廃などを望むカップルの声が多くあります。
今後どのように変化するかはわかりませんが、適した治療を行い最短期間で妊娠を目指すということは保険適用前から今も変わりません。保険適用が良い方向に改定を重ね、妊娠を希望するカップルが最短でその手に我が子を抱けるような未来を期待し、妊活を頑張るすべてのカップルにエールを送ります。